大手芸能事務所であるジャニーズ事務所(現SMILE-UP.)の創業者で2019年に87歳で死去したジャニー喜多川氏が長年、性暴力の加害者であったことが最終的に認定された。2023年3月に放送された英国の公共放送BBCのドキュメンタリーが被害者のインタビューを報じてそのきっかけをつくった。

口火を切ったTBS「news23」

 2023年は「性暴力」が日本を大きく揺るがした年だった。

 深刻な人権侵害である。男性が被害に遭うこともあること。さらに加害者が男性で男性による男性への性暴力があること。被害者が子どもの場合には抵抗できず、その後に取り返しがつかないほど深刻な心の傷をつくってしまうこと。会社の職場でそうした性暴力が蔓延する実態が判明すれば、根絶する環境をつくったことを証明できなければ、人権感覚に乏しい企業と認定されて国際的なビジネスのプレイヤーとしては相手にされないこと。その企業と取り引きする企業も同じように扱われてしまうこと。

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 だが、日本国内のテレビ局の報道はニュースの扱いも及び腰だった。人気アイドルを多数抱えて絶大な権力を誇っていたジャニーズ事務所。その顔色をうかがうかのように初期の報道は消極的で、特集などで大きく問題を取り扱うことはなかった。

 そんななかで大きな節目となったのが5月11日のTBS「news23」だった。

カウアン・オカモトさんの証言を放送(TBS「news23」5月11日より)

 振り返ってみれば、ジャニーズ事務所が5月14日夜に藤島ジュリー景子社長(当時)の謝罪動画を発表したことで各局が一斉に報道するようになる。事務所そのものが謝罪したことで報道を躊躇する必要がなくなったと判断した番組が相次ぎ、報道は増加した。

 しかし「news23」はその3日前に人気アイドルを多数抱える巨大権力だったジャニーズ事務所での性被害について、被害者側で、4月に日本外国特派員協会で記者会見を行った元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさん(26、放送当時)の証言を放送した。15歳で寝ている時に被害を受けたという。同じ番組では元ジャニーズJr.の橋田康さん(37、同)も13歳の時にホテルで寝ている時に性暴力を受けたと証言した。「突っ込んで言うならレイプなので……」と、自らの被害を語った。

証言する橋田康さん(TBS「news23」5月11日より)

 被害に遭ったという人が他にも登場して合計10分あまり特集として放送した。小川彩佳キャスターは当事者に共感を寄せて締め括った。

「カウアンさんはジャニー氏の疑惑について『当時からメディアが報じていたら、ジャニーズ事務所に行くことはなかった』とも話されていました。はたして報道機関がどれだけこうした被害を報道してきたのか。少なくとも私たちの番組ではお伝えしてこなかったという現状があります。その中でこのカウアンさんの発言は非常に重く、この言葉には向き合わなければならないと感じています」