じつは、私は小さいころ天文学者になりたかったんです。ただ、数学が苦手だったのでそちらの道は早々と諦めました(笑)。今でも星は好きですね。物語にも出てきますが、たまに星座早見盤を眺めて「今夜はこんな星空か」とか想像したり。自分は絶対に生きて実物を見ることはできないけど、星は確かに存在している。はるか彼方の星を飛び出した光が、数十万年も旅をして、いま自分のもとに届いているということにとてもロマンを感じます。そんな思いも描いてみたかった。
「辛い話すぎて目を離せない」物語になってしまう
――今回の作品は、何を話してもネタバレになってしまいそうな仕掛けがほどこされています。ここまでの話を聞くと、さわやかな小説なのかな、と思ってしまいますが……。
内容にはあまり踏み込めないのですが、「命を燃やして」書きましたと、少し大げさに言わせてください。私はどの作品でも、臨場感を大切にして小説を書きたいと考えています。そうすると、一人一人の登場人物に感情移入していくことにならざるを得ない。主人公が車にはねられたら、空中に放り出されたときにどんなふうに景色が見えるのか、体のどの部分から落ちていくのか、どこを怪我するだろうか、などと細かく具体的に想像する。
そんな書き方ですから、書いてて痛みを伴うわけです。しかも一人だけでなく、登場人物全員にそうやって感情移入するので、精神的には満身創痍です(笑)。ですから、一つの作品を書き終えると燃え尽きてしまう感じです。そんな調子なので量産できないのが悩みです。
――伊岡さんの作品では、主人公が虐待されたりとひどい目に遭うことが多いです。もっと穏やかな話にしたら、伊岡さんの執筆の負担も軽くなるのでは?
おっしゃる通り、私も大変な思いをしたいわけじゃないんです。書き始めるときは、今度こそは主人公が辛い目に遭わないようにしたいと願っているんですが、いつの間にか悲惨な境遇になってしまうんですよね。ハッピーな話を書いてみたいのですが、いまだに成功してません(笑)。
でも読者の方の反応を拝見すると、「辛い話すぎて目を離せない」と言ってくださる方もいて、ああこの世界観を待っている人がいるんだなと励みになります。
いおか・しゅん 1960年東京都生まれ。2005年『いつか、虹の向こうへ』(応募作「約束」を改題)で第25回横溝正史ミステリ大賞とテレビ東京賞をW受賞して作家デビュー。14年刊行の『代償』は累計50万部突破のベストセラーに。他の著書に『瑠璃の雫』『教室に雨は降らない』『悪寒』『不審者』『冷たい檻』『本性』『仮面』などがある。