1月4日、写真家の篠山紀信さんが83歳で亡くなった。
155万部を売り上げて社会現象にまでなった宮沢りえの写真集『Santa Fe』を始めとするヌード写真集、国内外さまざまな人物のポートレート、そして「週刊朝日」の女子大生表紙シリーズなど、数多くの作品を残してきた篠山さん。
文春オンラインに掲載された記事を改めて配信する。
(初出:2019年9月7日。文中の年齢・肩書などは当時のものです)
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すでに「昭和」がけっこう遠い過去に感じられるほど、時代の移り変わりは激しくなる一方だけれど、ここに変わらぬものがひとつ。半世紀以上にもわたって日本の人、風景、出来事を平面上に留め続けている篠山紀信の写真である。
稀代の写真家の営みを通覧できるのが、東京ドーム脇のGallery AaMOで始まった「篠山紀信展 写真力」だ。
スターのポートレートで現代史をたどる
会場を入るといきなり、大きく引き伸ばされた男性の顔のアップと正対することとなって、驚かされる。「寅さん」シリーズでおなじみ、渥美清である。あまりの迫力に思わず目を逸らすと、左右どちらの壁面にも女性を写した巨大な写真が掛けられていて、さらなる圧力に呆然となる。彼女たちとは、長寿で知られた「きんさんぎんさん」や夏目雅子、美空ひばりといった面々。なんとか歩を進めても行く先々に大原麗子、三島由紀夫、勝新太郎、田中角栄、高倉健……。ジャンルを超えた「時代の顔」が待ち構えていて、それぞれ強烈なオーラを発している。
いったん写真が途切れて、ようやく開けた空間に抜け出たと思えば、その室にも人、人、人の顔が並んでいる。北野武や松井秀喜、Y.M.Oに広末涼子、指原莉乃、満島ひかりに広瀬すずと、時代を画する人物のオンパレード。極めつけは天井まで届きそうな、水着姿の山口百恵の写真か。いわば「顔でたどる日本現代史」といった趣である。
「人の顔っておもしろいでしょう? その時代の空気から自分史の細部まで、観る人にいろんなことを思い起こさせるものです」
展示のオープンに先駆けて会場を訪れた、篠山紀信ご本人がそう言う。たしかにこの空間に身を置いていると、メディアを通してこれらスターたちと接してきた私たち一人ひとりが、そのとき何をしてどんなことを考えていたか、事細かに思い起こされる。篠山紀信の写真の一枚ずつが、「思い出再生装置」として機能する。