3度結婚したがいずれも破綻に終わった経験を持つ新川てるえさん(56)は、自らの波瀾の経験を糧にして、複雑な家族が抱える問題の相談にのるカウンセラーとして活躍してきた。
男女の機微、酸いも甘いもかみ分けてきた――そう自覚していた新川さんが、新たな罠にはまったのは2015年のことだった。
相手はアメリカ陸軍に所属し、アフガニスタンに派遣されている「アレン」という男。妻を早くに亡くし、一人娘もアメリカ本土に置き従軍しているという境遇を知った。
「早く帰国したい」
訴えるアレンに新川さんの同情の念が募る。この可哀相なアメリカ人男性のためになにかできることはないか。やがて届いた彼からの借金の申し出に、新川さんは善意から応じてしまう。気づけば、ロマンスの罠に首までどっぷり浸かっていた。(全4回の第4回)
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恋人から「君は詐欺にあっている」と指摘され
――そこまで疑う要素がなかったのに、詐欺だと気づけたのはなにがきっかけだったんですか?
新川 お正月明けに私はこの出来事を当時の恋人に初めて話したんです。恋人からは「君は詐欺にあっている」と指摘されましたけど「ありえない」と言ってとりあいませんでした。そんな私が違和感を持ったのは、いよいよ軍を去るという日に、「タリバンに攻撃された」といってアレンが送ってきた怪我の写真です。これが明らかに偽造したものなんです。怪我人の顔だけをアレンに変えたような、アイコラっぽいものでした。ショックでしたよ。怖くてアレンに連絡できなくなりましたし、私自身の精神状態もおかしくなってしまった。ずっとメッセージのやり取りをしていたのは誰だったのか……恐怖心がすごかった。
――その後、連絡も取らずに損害は泣き寝入りということでしょうか。
新川 お金は取り戻せそうにありません。基本的に海外での被害を日本の警察は捜査できませんから。金額のショックもそうですが、私としては善意を裏切られた精神的なダメージのほうが大きかったです。カウンセリングにも通いました。数カ月が経ち、ようやく少し落ち着いた頃、「アレン」がなぜこんなことをしたのか、というのがとても気になってきました。
――納得したかったんでしょうか?
「もう二度とやらない。いつかお金を返したい」という返信
新川 私は再びメッセージを「アレン」に送りました。「あなたのおかげで英語も上達した。私はあの写真の人ではなく、あなたの本当のキャラクターが好きだった。本当のことを話して欲しい」と、そんな内容のメッセージです。なんで騙したんだって怒りとは別の動機でした。
――詐欺師だと分かっていながらですね。
新川 結果から言うと、連絡をして良かったと思います。彼から来たメッセージによると「アレン」の正体は27歳のナイジェリア人だそうです。下にたくさんいる兄弟の学費だったり、母親の手術費用が必要で、悪い友達に誘われて初めて詐欺をしてしまった、と。私をだましてお金を手に入れたことで心がすごく痛んだようで、「もう二度とやらない。いつかお金を返したい」と言っていました。どこまで本当かは分かりません。でも、個人的には救われました。