──おばさん連盟のメンバーは、「子育て」という共通の目的がなければ、政治的な立場はさまざまだったはずです。国防についての政策は、仲間内で意見がまとまらなかったりはしませんでしたか?
ペイリン いや、建国する(=台湾独立)とか改憲とかの細かい話であれば人によって意見は違うはずですが……。台湾の民主主義の社会を守る、国の主権を維持する、という点には誰も異論がないので、意見の統一は大変ではありませんでした。ほかに、「守る」の対象として想定されるリスクは(中国の侵略による)戦争だけではなくて、天災もあります。
──たしかに。1月の日本の能登半島地震でも痛感しましたが、災害の際には子どもと高齢者が最も苦しい立場に置かれます。
ペイリン そうなんですよね……。だから防災の備えは大事なんです。子どもにとって安全な環境を作るために必要なので。
──国防に言及するのも子育て環境のためというのは、台湾が置かれた立場からすれば理屈は通りますね。他の公約の「労働問題の改善」も、要は両親が育児参加するためには労働環境がよくないといけないわけですし。政策のコンセプトにある意味で一貫性はある気がします。
ユーロン そうなんですよ。親がずっと残業では子どもと向き合う時間が作れないですし。職場で育休を取っても、出世に悪影響が出ない社会のほうがいいですよね。
「第三極」民衆党躍進の背景にも子育て問題が?
2022年の台湾の合計特殊出生率は、なんとわずか0.87であり、日本の1.26すら下回る世界最低水準だ。台湾は社会全体にやさしげなイメージがある国だが、子どもや若い世代の絶対数がすくないことで、政治はどうしても中高年に顔を向けたものにならざるを得ない。
今回の台湾選挙において、若い世代が「第3極」の民衆党をこぞって支持し(30代以下の有権者の支持率は5割を超える)、同党の選挙集会で親子連れが目立ったのも、既存の二大政党が若者の方を向いていないとみなされたことが一因だった。民衆党が若者や子育て世代の暮らしを本当になんとかできるかはさておき、この方面の政策は民進党よりは期待できる(国民党は論外)と判断されたのである。
得票数は民衆党のわずか25分の1ながら、おばさん連盟の意外な躍進も、やはり台湾社会の近年の問題意識を反映した結果だろう。
ユーロンさんによると、今回の選挙では「イイと思うけれど絶対に誰も当選しないから」という理由で票を入れなかった人も多かったらしい。だが、今回の結果で台湾のマスコミはこぞって「おばさん躍進」「おばさん、台湾基進と親民党に勝利」と面白がって報じており、知名度は上がった。
台湾の2年後の地方選や4年後の立法院選は、ちょっとだけおばさんに注目である。