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大人になったボーは荒廃した地域で、不安に怯えながら一人で暮らしている。窓から見下ろすと浮浪者やジャンキー、異常者が行き交い、喧嘩や強奪が絶えない。この光景もボーの幻視なのか現実なのかはわからない。ボーは今日、父の命日のためフライトで帰宅する予定だが、確認の電話をかけてくる母親は期待していないようだ。「──どこかへ行かなければいけないのに、どうしても行けない──」誰しも一度はみたことのある夢だろう。ボーも様々な邪魔だてが入り、出発できずにいる最中に、母の死という予想だにしないことが起こる。
不条理な母の愛に応えらえないボー
ボーは母からあからさまな抑圧を受けており、どのようにふるまっても母の愛情を満足させられないとしか思えない。母のモナは商業的成功を収めた強い女性であり、支配的な母である。アスターの『ヘレディタリー/継承』には、血族の愛以上に優先される儀式が登場し、息子も娘も、家族は最初からその目的のために形成される。アリ・アスターの映画は、本当に親族の愛が欠落している不信と絶望がある。だから、ボーの家族の物語もどんな終末を迎えるのか信頼できない。
ボーはすでに、「母が理想とする愛には一度も応えられなかった息子」という立場で、居たたまれない思いをする運命にある。この母親の愛は不条理で、息子の精神を未熟なまま生育不全にしてしまう。さらにボーは、母親から性的な呪縛も受けており、セックスをすると恐ろしいことが起こるとインプリンティングされている。