原作に加わった2つの視点
同名の小説を映画化するに際し、監督の三宅唱は小説とはまた別の視点を、PMSとパニック障害を抱えるふたりの物語につけ加えた。
ひとつはいま、この世界を映す視点だ。
世界にはさまざまな人たちが生きている。ひとりひとりが異なる私たちは、否が応でもともに生きなければならない。他者との共存というその観点は、主人公ふたりの関係性にも表れてはいるが、より明確になるのは周囲の人たちの描き方においてだ。
さまざまな家庭環境にある人たちが、いま、この世界を構成していることを、三宅はとくに強調するでもなく、当たり前に映す。とりわけ周囲の人たちが子どもとかかわる姿を、それとなく作品に挟み込むことで、彼はいまでなければ映せない、社会のありようを記録する。それがいま、この世界に生きる映画監督の使命だ、とでもいうように。
そしてもうひとつは、宇宙へと広がる視点だ。
三宅は主人公たちの働く会社を、小説の「栗田金属」から「栗田科学」に変え、主人公のふたりを移動式プラネタリウムの企画運営に従事させる。ふたりはプラネタリウムの実施に向けた作業を通じ、夜空の星たちに、夜空の果ての広大な空間に思いを馳せる。
そこに自然と生まれる構図は、宇宙と私たちの日常との対比だ。思い煩うことは多く、苦しいかもしれないが、悠久の時を刻む宇宙と比べたとき、それらのなんとささやかなことか。
『夜明けのすべて』が最後にたどり着くのは、ささやかで、それゆえに愛おしい、私たちの日々――。
STORY
PMS(月経前症候群)が発症すると、イライラが抑えられなくなる藤沢美紗は、転職してきた山添孝俊の些細な行動をきっかけに、怒りを爆発させてしまう。だが山添も藤沢と同じように、パニック障害の発症に怯えながら、ままならぬ日々を過ごしていた。ふたりは周囲の人たちに支えられ、互いの症状を理解し、ともに助け合っていく。
STAFF & CAST
監督:三宅唱/脚本:和田清人、三宅唱/原作:瀬尾まいこ『夜明けのすべて』(水鈴社/文春文庫 刊)/出演:松村北斗、上白石萌音、渋川清彦、りょう、光石研/配給:バンダイナムコフィルムワークス=アスミック・エース/2月9日公開