杉は何度も震災の復興支援に携わってきた経験から、被災者の精神的なストレスのケアの重要性を力説した。なぜ杉は“被災者目線”の支援にそこまでこだわるのか。
「今までの被災地でも感じたことだけど、被災者の人たちはどんなに笑顔でも目の奥には暗いものがあるんだよ。長年住んできた家を突然失ったんだから当然だ。
実は亡くなった僕の母親も阪神・淡路大震災で被災して家を失って、精神的に沈んでしまった。それで寿命を縮めてしまったのではないかと思う。だから金沢の避難所の人には元気を出してほしくて、帰り際、見送りに来てくれたおじいちゃんに、『辛いけど、まだまだ生きていかないとだめだよ』と声をかけた。おじいちゃんは『またテレビドラマに出てください』と言ってくれた。最近僕はオファーをほとんど断っていてテレビには出ていないから、寂しいと言ってくれてね。
今回僕が行ったことで不安や苦痛を吐き出すことができたなら、それは温かいごはん以上の生きる喜びにつながったのではないかな」
「売名に決まってるじゃないか」
65年以上、国内外で福祉活動を続けてきた杉だが、東日本大震災の復興支援の現場では、テレビリポーターに「売名ですか」と聞かれ、「売名に決まってるじゃないか。みんなも売名すればいいんだよ」と返したことも大きな話題となった。
「自分以外の誰かのために、お金や時間を使った経験が乏しいから、そんな質問が出てくるのだろう。ハッキリ口にせずとも、心の底で『売名行為』とか『偽善者』なんて思っている人は山ほどいるだろうが、そんな声を相手にする暇など僕にはないんだ」
2月9日(金)発売の「文藝春秋」では、この能登半島地震の被災者支援の模様のほか、受刑者の死亡事件が起きた福島刑務所を視察する緊迫のルポや、ベトナムの孤児院で受け入れた220人の里子への想い、長年の福祉活動に対して上皇后・美智子さまにかけられた“ある言葉”などについて述懐している(「文藝春秋 電子版」では2月8日(木)に公開)。