先月17日、『文藝春秋』2月号掲載の小泉今日子とアナウンサーの有働由美子による対談の一部が「文春オンライン」で公開された。同記事は大手ポータルサイトにも転載され、広く読まれることになったが、そのとき見出しになった「バラエティはくだらない」という小泉の発言が賛否両論を呼んだ。
発言の真意は…
この発言に対しては、バラエティ番組をほかの何か(たとえばドラマやニュースなど)とくらべて劣っていると言ったものと解釈し、反発する人もいた。しかし、そうした解釈は、発言の趣旨とズレている。下に引用したとおり、前後も含めて読めば、小泉はけっしてバラエティそれ自体がくだらないと言っているわけではないとわかっていただけるはずである。
有働 (中略)最近はテレビのバラエティ番組で全然お見かけしませんね。
小泉 絶対出たくないですね。
有働 なぜですか?
小泉 くだらないから。
有働 ワーオ! どういうところがくだらないですか?
小泉 どういうところも何も、素敵だと思いますか?
有働 ……実は私もあまり見ないので、コメントが難しいですね。でも、小泉さんが昔、出ていた頃のバラエティと何が違いますか?
小泉 たぶん、昔と同じだからマズいんじゃないですかね。世の中がガラッと変わっていっているのに、昔のムードのまま押し通そうとしている。テレビ局は変わらないとマズいよね、と思っています。
文脈をちゃんと把握すれば、「くだらない」という言葉は、バラエティにかぎらず、旧態依然として変われずにいるテレビ業界全体に向けられているとわかるだろう。こうした彼女の危機感は、じつはいまに始まったことではない。10年前のインタビューでも、《私、ドラマが、テレビが、大好きなんです。テレビがつまんないと「どういうこと!?」って思う。面白い番組がないとチャンネルを必死で回しちゃう。テレビにはもっと頑張ってほしいな》と語っていた(『AERA』2014年4月21日号)。これと同じく今回の発言も、テレビが好きだからこそのエールと捉えるべきなのではないか。なお、10年前の記事で彼女はさらに続けて、こんな発言もしている。
《私みたいに事務所に入っている人間が言うのもなんだけど、日本の芸能界ってキャスティングとかが“政治的”だから広がらないものがありますよね。でも、この芸能界の悪しき因襲もそろそろ崩壊するだろうという予感がします。そのときに始めても遅いから、今からチャレンジを始めている人がこれから先は活躍するだろうなと思います》
50代に入るタイミングで、大手事務所から独立
このあと、芸能界で起こったさまざまなできごとを思えば、小泉の指摘の的確さに驚かされる。彼女自身も新たなチャレンジのため、この翌年の2015年には制作会社「明後日」を設立、3年後にはデビュー以来所属してきたバーニングプロダクションから独立している。ちょうど50代に入るタイミングで、これが最後のチャンスだと思い、《これからはすべての責任を自分で背負って、今まで見えなかった景色を一通り見てやろう。自由を思う存分味わってから死のう、と》決意したという(『婦人公論』2023年7月号)。