そして、アイヌ民族として生まれたばかりに、和人によって差別や迫害を受ける怒りや哀しみ、「なぜこんな理不尽に苦しい思いをしなくてはならないのか」という憤りなど、自分の中に自然に湧きあがる感情を、役に投影していきました。
ひたすら音源を聴いたユーカラ
──難しい役柄ですよね。役作りで一番ご苦労されたのはどのようなことですか?
理不尽な差別や迫害を受けるアイヌ民族の気持ちになることです。同じ気持ちにならなければテルになりきることはできないと思って役作りをしたのですが、役に入り込むほど、撮影現場にいることがつらいと感じて、苦労しました。そして、これが紛れもなく日本で実際に起きたことだという事実も、かなりショックでした。
あとはセリフが少ないことですね。今作では、「一日中撮影していて、画面にはずっと映っているのに、セリフがほんのひと言しかない……」ということも結構ありました。セリフがないので、ふるまいやちょっとした目の表情で感情を伝えないといけないのが、すごく大変でした。
──でも吉田さんは目力がすごく強いので、監督も「目で訴えかける」演技ができると思われたのでは。
えぇ~! ほんとですか! 監督からもオーディションの時に「目力で伝える魅力がある」と言っていただいたので、すごく嬉しいです。ありがとうございます。
アイヌ民族の方や、アイヌに関わりのあるみなさま、映画を見てくださる方にご納得いただけるかどうか心配でもありますが、撮影中、一生懸命「テル」として生きた私の思いが、スクリーンを通して伝わったらいいなと思います。
──アイヌの叙事詩であるユーカラ(※ラは小文字)はどうやって覚えたのですか?
アイヌ文化は文字を持たないので、歌詞カードがないんです。だから、撮影に入る前に音源を送っていただいて、ひたすらそれを聴いて覚えました。
もともとユーカラは、各家庭の先祖伝来の教訓みたいなものなので、みんな耳で聴いて覚えて、それを伝えてきたそうです。だから、各家庭によって物語が違うし、伝え手・語り手によって抑揚も全然違う。しかも楽譜もないので、本当に、ひたすら音源を聴いて、その音源通りに覚えていくしかないんです。ただただ、聴いて覚える。その繰り返しでした。