スマートフォンで読むことを前提に描かれた新たな漫画の表現形式「ウェブトゥーン」。中国の調査会社が2023年に発表したレポートによると、その世界市場は2029年に22年比7倍の275億ドル規模に急成長すると予測されている。昨年末時点の為替レートで円換算すると約3兆8千億円。国内の漫画市場(約67億円)をはるかに上回る巨大ビジネスが誕生しようとしているのだ。

 そんななか、漫画大国である日本はどのよう対策・対応をとっているのか。ここでは、共同通信社記者の小川悠介氏の著書『漫画の未来 明日は我が身のデジタル・ディスラプション』(光文社新書)の一部を抜粋し、日本の漫画業界の実情について紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)

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背水の綱渡り経営

 日本の制作スタジオ業界では、早くも先行きを懸念する声がささやかれている。経営のネックになるのは資金繰りだ。作品によって幅はあるものの、ウェブトゥーンは1話当たりの制作費がおよそ50万円で、20話を事前に作り置くとなると1千万円かかる。漫画アプリの運営会社から資金が出る場合もあるが、仮にスタジオ独自で10作品を同時に制作していれば、1億円が先行投資としてのしかかる計算だ。制作開始から収益が発生するまでにタイムラグが大きく、綱渡りの経営状態に陥りがちなのだという。

 しかも狙った通りに作品が人気を博すとは限らない。国内の制作スタジオの数はすでに70社を超え、仕掛かり中の作品は合計で1千を優に超えているとみられる。これらに韓国からの輸入作品が加われば、一時的に供給過多になる恐れがある。

「作っても出しどころが少ない」。制作現場を取材して回っていると、こんな愚痴を耳にする。漫画アプリ「ハイクコミック」などの日本勢が登場してはいるものの、結局は膨大な利用者を持つピッコマかLINEマンガの韓国系の2大アプリで配信されなければ大当たりは難しいのだ。仮に韓国系アプリに採用されたとしても、アプリ内のトップ画面で強く推してもらえる可能性は決して高くない。自社が制作に関与した作品が優先されるという理由だけでなく、少数の作品を大々的に売り出す「ブロックバスター戦略」を取るためでもある。