韓国で『鬼滅の刃』のコミックスが異例のヒットとなっている。ソウルの大手書店の全書籍のランキングで1位となるなど快進撃が続いているのだ。近年、日本製品の不買運動で盛り上がり、劇場版アニメの公開時には主人公の耳飾りが「旭日旗に似ている」と批判されてデザイン変更になった韓国で、なぜファンを獲得できたのか。
現地の漫画評論家で、ソウルウェブトゥーンアカデミー理事長の朴仁河(パク・インハ)氏が寄稿した。
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なぜ『鬼滅の刃』は“突風”となったのか?
いま韓国で、『鬼滅の刃』のコミックス版がベストセラーになっている。韓国国内の大手書店でも、総合ベストセラーランキングを席巻するようなブームなのだ。
韓国において、1990年代の『ドラゴンボール』、『スラムダンク』人気が日本のマンガブームの“第1波”だとすれば、2000年代の『ワンピース』、『名探偵コナン』ブームが“第2波”。今回の『鬼滅の刃』は“第3波”にあたり、これに続いて『呪術廻戦』、『怪獣8号』などの作品も売れている。
なぜ『鬼滅の刃』は、韓国においても“突風”と言えるようなブームになり得たのだろうか。
コミックスが「いま売れている理由」
まず、いまこのタイミングで『鬼滅の刃』のコミックス版が売れている理由を考えたい。
『鬼滅の刃』のコミックスは2017年から韓国で地道に発売されてきたが、すぐに爆発的な反応は起こらなかった。
まず前提として、日本語版が翻訳されて、韓国で刊行されるまでの“タイムラグ”について、知る必要がある。
例えば、韓国でも安定的なファン層が存在する『ワンピース』の場合、日本と韓国との刊行の時差が非常に短い。『ワンピース』98巻の場合、日本では2021年2月に発売されたが、韓国でも翌3月には書店の店頭に並んだ。せいぜい1カ月の差だ。
一方、『鬼滅の刃』1巻は、日本で2016年6月に刊行されたが、韓国では2017年9月に翻訳出版された。
日本で人気を博していたにもかかわらず、韓国での刊行に時間がかかったのは、大正時代という時代背景がある上に、日本のお化けが出るなど“日本色”の強い作品のため、その文化的ギャップがあった。そのため、日本で第1巻が出てからすぐに韓国で紹介されることはできなかったのだ。
先行した「劇場版アニメ」「ネットフリックス」
2017年9月のコミックス発売後も、すぐに『鬼滅の刃』がブームになったわけではない。その予兆がみえたのは、昨年秋になってからだった。
2020年10月29日付の韓国のネットメディア「IT朝鮮」が、「アニメ業界を揺るがす“鬼滅の刃” 興行収入1千億ウォン突破…ネットフリックスも注視」との記事を公開した。