不買運動が続くのに日本のマンガがヒット?
もう一つ、チェックするべき社会的背景がある。それは、2019年の韓日対立以降、韓国では日本製品の不買運動が続いているにもかかわらず、なぜ『鬼滅の刃』のように日本色の強い作品が成功できたかということだ。
韓国の大衆、特に若い世代は、日本のコンテンツで日本の文化や生活様式を取り入れているからといって、それだけで排斥することはない。劇場版やアニメで炭治郎の耳飾りが「旭日旗に似ている」と指摘され、その韓国版ではデザインが変更されているが、韓国版コミックスでは変更されていない。それでも、作品内に軍国主義を擁護する描写が登場しなければ、拒否するような世論は形成されないのだ。
しかも『鬼滅の刃』はジャンル的にも、韓国人にお馴染みのクリーチャー(Creature)物だ。鬼殺隊に入って鬼を退治する主人公・炭治郎の活躍は、最近メジャーとなったゾンビ物やヴァンパイア物など、クリーチャーもののジャンルとあまり変わらない。朝鮮時代を舞台にゾンビと戦う韓国ドラマ『キングダム』(ウェブトゥーンが原作、ネットフリックスで配信)が、いま世界で人気を集めているのと同じ流れと言える。
「鬼滅」に続く日本マンガは生まれるか?
これまで見て来たように、『鬼滅の刃』のコミックスは、韓国のウェブトゥーンにおける変化に対応し、「原作マンガからアニメへ」という従来の流れから、最新のコンテンツ消費プラットフォームを経由した「ネットフリックスのアニメから原作マンガへ」というユーザー体験で大ヒットとなった。
“ガラパゴス化した日本のマンガ”としてではなく、最先端のコンテンツとして『鬼滅の刃』が若い世代に紹介され、消費されたのだ。
新しく日本のマンガの読者に仲間入りした若い世代は、ネットフリックスのアニメ原作ではなくても、「日本マンガのファン」として残るだろうか。
すでに『鬼滅の刃』に続く、『呪術廻戦』、『チェンソーマン』、『怪獣8号』などの作品は、日本マンガの“第3波”の流れに乗って、多くの韓国の人々に読まれ始めている。
作品の完成度さえよければ、新たな「日本マンガのファン」を生み出すことは、これからも十分に可能なことだと、筆者は断言したい。(訳:金敬哲)