日本政府はエンタメ作品の人気を利用して外交力を高める狙いもあり、12年に「クールジャパン戦略担当相」を新設。翌年には官民ファンドの「海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)」を立ち上げた。それから約10年が経つが、一体どのような成果があがっているのだろうか。

 ここでは、共同通信社記者の小川悠介氏の著書『漫画の未来 明日は我が身のデジタル・ディスラプション』(光文社新書)の一部を抜粋。日本のエンタメ業界の実情について紹介する。(全2回の2回目/1回目を読む)

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迷走するクールジャパン

 クールジャパン機構には多額の公的資金が投入されたが、残念ながらめぼしい成果が見当たらない。投資したマレーシアの商業施設では、「アナと雪の女王」や「スター・ウォーズ」などの海外作品が展示されるといったお粗末な事態が判明。資金繰りがつかず経営破綻する投資先も出る中、機構幹部による女性社員へのセクハラ事件まで発覚し、世間の強い批判を浴びた。累積赤字は300億円超に達しており、現在組織の廃止が検討されている。

 経産省が所管する別の官民ファンド「産業革新機構(INCJ)」の投資状況も悲惨の一言に尽きる。漫画や邦画のハリウッド展開を目的に設立された東京の映画会社に数十億円を投資したが、素人然とした経営は出だしから行き詰まる。結局、会社は一本も映画を製作できず、INCJは17年にタダ同然で持ち株を売却する羽目になった。

 政府のクールジャパン戦略全体を見渡しても、当初の期待とは裏腹に迷走ぶりが目に付く。経産省や文化庁、外務省など省庁間の連携が乱れた上に民間側も大して乗り気でなく、官民の足並みは一向にそろわなかった。出版業界の中では「言論・表現の自由」を確保するために、過度に国に頼るべきではないとの考えも一部にあったという。だが、ここにきて日本企業の姿勢に変化の兆しが出ている。国内のコンテンツ市場に頭打ち感が出る一方、世界市場は着々と拡大を続けているためだ。

 

 デジタル化の進展で国境を越えて作品を届けやすくなり、グローバルヒットを前提にして多額の制作資金をかけた作品が各国で幅を利かせるようにもなった。このまま自国に閉じこもっていれば、現状維持さえおぼつかなくなるとの認識が広がっている。