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異業種の企業が運営するケースが

 作家と一対一で向き合う漫画編集者と違って、ウェブトゥーンのプロデューサーは集団をまとめ上げる人心掌握術も求められる。だが、クリエーターは個性が強く社交性に乏しい人も少なくないため、組織を円滑にマネジメントするのは一筋縄ではいかない。新型コロナの影響でリモート作業が浸透し、「仕事終わりに軽く一杯」といった具合に対面で日常的に交流を深めるのもなかなか難しいようだ。あるプロデューサーは「スタジオのあちこちでケンカや揉め事が起きて、前向きな雰囲気を作るのに苦労しています」と愚痴をこぼす。

 経営と現場の間にもすきま風が吹いている。韓国では作家出身者が立ち上げたスタジオも珍しくないが、日本は異業種の企業が運営するケースが目立つ。制作スタジオの幹部の中に、「ビジネスチャンスだから参入を決めたが、それほどウェブトゥーンを読んだ経験はない」と本音を語る人もいた。これでは会社としてまとまらないのは自明だろう。

 日本の第一次ウェブトゥーンブームの立役者、東京のウェブトゥーン制作会社ミキサーでプロデュース業務を手がける北室美由紀はこんな違和感を口にした。「10年前は(日本に制作スタジオはなく)作家と読者が一体になって新たな市場を作ろうとする温かみがありました。今は、肝心の読者が置き去りにされ、企業によって一方的に作られたブームのように映ります」。

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「韓国作品をパクれ」

 そんな状況下、制作スタジオ業界では「T・T・P」なる言葉が流行しているのだという。もちろん環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の間違いではない。その意味は、韓国を「てっ・ていてきに・パクれ」。韓国の有名作品を教科書代わりに一コマずつ分解して、ネームの描き方から着彩、「エフェクト」と呼ばれる絵の加工・演出技術までを細かく解析し、自分たちの作品にそっくり取り込んでいる。

 これまで韓国は、半導体や家電などさまざまな産業領域で、日本の高い技術力を貪欲に吸収してキャッチアップを図ってきた。エンタメの分野でも、「東方神起」などを輩出した大手芸能事務所のSMエンタテインメント(2000年に韓国コスダックに株式上場)が、日本のエイベックスを徹底的に手本にしたのは有名な話だ。それが、まさかお家芸である漫画で逆転現象が起きているとは──。LINEマンガの運営会社では、韓国人のチーフ・クリエイティブ・オフィサー(CCO)、尹仁完(ユン・インワン)が22年までウェブトゥーン制作を指揮していた。