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「100分の1くらいでしょ」BiSHがなくなったら自分は…? モモコグミカンパニーが父親、そしてプロデューサー・渡辺淳之介から言われた“意外な言葉”

『解散ノート』より#3

source : ノンフィクション出版

genre : エンタメ, 芸能, 音楽, 読書

note

「まずは世界を広げてみなよ」

2020年12月12日

 渡辺さんと一緒の仕事が六本木であって、そのあとに2人で話すことにした。スターバックスには人が沢山並んでいて、結局マクドナルドのテラス席に決めた。寒空の下、2人でホットコーヒーとカフェラテを注文して席に着いた。でもそのときの私には、寒さを感じるほどの余裕はなかった。

 渡辺さんに、今感じていることを全て話した。

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「私、1月のスケジュール、がら空きなんです。その期間、人と会ったりして、なんとなく予定を埋めてやり過ごしていたら、私、終わっちゃう気がするんです。テレビとかラジオとか雑誌とか単発の仕事ももちろんありがたいことだけど、そういうことじゃなくて、自分から何かをしてみたいんです」

 渡辺さんが言った。

「まずは世界を広げてみなよ。モモコはすごく優しいと思うし、自分の頭で色々考えているかもしれないけど、少し視野が狭いと思うことがあるよ。色んな人に会ったり、勉強したりしてみたら?」

 それは私も思っていたことだった。今までBiSHの中で、沢山のライブの大きな箱だったり、渡辺さんの用意してくれた目標に向かって、みんなと一直線に頑張ってきた。その日、そのときに、懸けていた。何よりもBiSHのライブで成長した姿を見せたかった。そんな風に一直線にきたからこそ、その分視野が狭くなっているかもしれない。これまでの私はBiSH以外のことに全身全霊を捧げるのは邪道なような気さえしていた。BiSHに全てを捧げるべきで、それ以外のものはBiSH人生のあくまでも付属品だ、と本気で思っていた。自分の世界をこれからどう広げていくか。それが今の課題だった。

「BiSHの中で守られている今、こんなに応援してくれる人がいる今、このスケジュールを見て、何もできない自分がスッカラカンに思えて、もどかしいんです」

「いや、スッカラカンなんかじゃないよ。でも、お前らのこと見てて、やっぱりアイドルだなあって思う時もあるよ。用意されたものしかやらないときもあるでしょ。結局はどれだけ自分で用意できるか。それが滲み出てくるんだと思うよ」

 滲み出てくるもの。その言葉を渡辺さんの口から聞けて私は安心した。芸能界は怖い場所だとも思うけれど、準備して自分の中に積み上げていけば、何かが滲み出てくる。そんな自然の摂理のような、取り繕いようのない正直さもあるのかもしれない。それなら、ほんの少しだけ希望を持てそうだった。少しだけ、信じてみたくなった。

 今後やりたいこと、改めてどんな人になりたいのか。渡辺さんと今後の展望などあれこれ話しているうちに、泣きそうになっている自分に気づいた。それと同時に、真剣に受け答えしてくれている渡辺さんの目も、今の私と同じように見えた。

「私思うんです。今、私も含めて、みんな『解散』が頭の中にあって、その決められた終わりを意識してそれぞれ頑張ったり、不安に思っているはずです。でも、やっぱり、積み上げてきたものが認められて、応援してくれる人がこんなに沢山いる今、終わりよりも、今が一番大切なんです。そんな今、こうやって無力感を感じてしまうのが悔しいんです」

「俺は力になりたいと思ってる。俺にできることはやるから」

 渡辺さんは私の目をまっすぐ見て、こう言った。味方だ。渡辺さんのもとにいる間はきっとずっと味方でいてくれるんだろうと思った。一気に肩の荷が下りた。今日話して本当によかった。一緒に荷物を持ってくれて、新たな戦場を探してくれるかもしれない。でもそこに挑むための武器は自分の力で身に着けないといけない。まだまだ、これから。

解散ノート

解散ノート

モモコグミカンパニー

文藝春秋

2024年2月14日 発売

「100分の1くらいでしょ」BiSHがなくなったら自分は…? モモコグミカンパニーが父親、そしてプロデューサー・渡辺淳之介から言われた“意外な言葉”

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