文春オンライン

世紀の一戦「猪木・アリ戦」が真剣勝負だったといえる理由 引き分けに終わり、世間からは「八百長」と批判されたが…

source : 提携メディア

genre : エンタメ, スポーツ

note

猪木は精神的に追い詰められていた

確か俺も巡業を2シリーズ休んで、猪木さんにずっとついていたんだよ。

猪木さんは試合に向けて、コンディションを整える練習とスパーリングをずっとやっていた。アリキック(スライディングキック)の練習をしてるところなんて見たことがなかった。

でも、躁鬱(そううつ)が激しいというかね。突然、「俺、勝てるよな?」って聞いてきたり、「藤原、俺を殴れ」って言ってきたり、精神的に追いつめられていたようだったな。

ADVERTISEMENT

あの試合、ハッキリ言えば死ぬか生きるかだからね。

よく「真剣勝負」って簡単に言うけど、猪木さんは負けたら会社も潰れるだろうし、破産だろう。

アリだって負けたらボクサー生命がおしまいでしょ。尋常じゃない緊張感があった。これがホントの真剣勝負だよな。

真剣勝負では糞尿だって垂れ流し

それに、闘いで何がいちばん怖いかっていったら、ペールワン戦もそうだったけど何をやられるかわからないっていうことなんだよ。知っていれば、心に余裕が生まれるけど、知らないっていうのは、本当に怖い。

しかも両者ともに背負ってるものが大きいから、ますます冒険した試合ができないんだ。

猪木さんはアリキックを繰り返して仰向けの体勢で、アリは「立ち上がれ」って挑発する展開が延々と続いて、引き分けに終わった。

真剣勝負はああいうものなんだ。侍が真剣で斬り合う果し合いだって、向かい合って微動だにせず、糞尿(ふんにょう)だって垂れ流し。

何時間もその状態が続いたあと、一瞬の隙を見て一太刀で勝負は決まるのと同じだよ。

「大凡戦」「茶番劇」とこき下ろされた

だけど世間の評価は散々なものだったな。今の総合格闘技なんかを見慣れたファンだったらもしかしたら理解できるのかもしれないけど、当時はまったく理解されなかった。

「大凡戦」「茶番劇」……ってこき下ろされた。しかも、矛先は“寝てばかりで闘おうとしない”ってことで猪木さんに向けられた。