高校卒業前に「女優」宣言
それだけに、彼女が高校卒業を前に家族を集めて女優になりたいと宣言したときには、母は「やっと言ったな」と安堵したらしい。20歳だった2006年に舞台『ソフィストリー~詭弁~』に出演し、事実上の俳優デビューを果たすと、それからというもの、親の七光りと呼ばれるのを拒みながらドラマなどに出演してきた。だが、安藤が映画初主演を務め、女優として注目されたのは、皮肉にも父の監督作品『風の外側』によってだった。
そもそも同作で彼女は脇役で出演するはずが、撮影開始直前になって主演の女優が降板したため、やむをえず代役を務めることになったのだ。父としても苦渋の選択であり、《我が子ではなく「女優」を見るという目を持たないと、自分自身に嫌気がさすと思った。それで、現場ではお前(引用者注:娘の安藤)を徹底的にしごくという選択をした》という(『週刊朝日』2009年1月30日号)。
安藤も理不尽な怒られ方をしていると思いつつ、撮影していくうち自然なやりとりになっていったとか。この経験のあと彼女は、『俺たちに明日はないッス』(2008年)や『愛のむきだし』(2009年)、『かぞくのくに』(2012年)などの映画でめきめきと頭角を現していく。
結婚の意外な決め手
この間、『俺たちに~』で共演した柄本時生から兄の佑を紹介され、2012年に結婚した。夫とは「この人なら離婚していいや」と思って結婚したと、のちに母と姉と一緒に出演したテレビ番組で明かしている。もちろん、端から別れるつもりなどなく、離婚も大変なことだというのは重々承知した上で、《だけど、どんなことが起こっても、この出会いで、その時間は、絶対に自分にとってはそれ以上のものになるって思った》ということらしい(フジテレビ系『ボクらの時代』2021年12月12日放送分)。
2014年には安藤の主演で、姉の桃子が監督、父の奥田がエグゼクティブプロデューサー、母の和津がフードスタイリストを務め、義理の両親である柄本明と角替和枝も出演した映画『0.5ミリ』が公開された。彼女が二世俳優であることに開き直れるようになったのは、このときだという。
世間的にもこのころを境に、二世俳優の域を越えた実力派俳優として認知されるようになった。その後も評価は高まるばかりで、いかにも順風満帆と思われたが、じつは引退もたびたび考えてきたらしい。彼女によれば、最初に壁に突き当たったのは2013年、『0.5ミリ』を撮り終え、『ショムニ2013』で初めてメジャーな連続ドラマにも出演し、大きく一歩踏み出したかなと思った直後だった。ちょっと女優になってみたいという欲が湧き、自分にどんどん制限をかけていたら急に芝居のやり方がわからなくなったという。
「今までウンコを出してたから…」
このときの心境を、安藤はのちに『週刊文春』の阿川佐和子との対談(2014年12月25日号)で、自分の演技を(醜い部分も含めてすべて表現するという意味で)「ウンコ」にたとえながら次のように説明した。