《今まで自分はウンコを出してたから凄く素敵な作品に出会ってたのに、制限しちゃって、「ウンコは出しません」ってことにしてたんですね。(中略)なんてバカバカしい制限をしていたんだろうと……。ウンコの出し方もわからなくなって、お芝居も「どうしたらいいんだっけ?」ってなって、これはもう便秘を通り越した、もう無理だ、「天晴れ、終わったぞ!」と思ったときに(中略)このオーディションのことを知ったんです》
「このオーディション」とは、武正晴監督の映画『百円の恋』(2014年)のオーディションを指す。同作は、引きこもりだったヒロインが、ボクシングを始めることで変貌を遂げていくという内容だった。安藤としてみれば、それまでにも引きこもりやニートは何度も演じてきただけに、このときもそのイメージどおりの役だった。しかし彼女は《そういう役を、ウンコを出しながらやってきたんだったら、「またかよ」って思われても、それ以上のウンコ出して、やったらいいじゃないかと思って》、オーディションを受けたという(『週刊文春』前掲号)。
身も心も捧げた映画
役に選ばれると、さっそくボクシングのトレーニングを中学時代以来、十数年ぶりに始めた。また、劇中で肉体の変化を見せるため、わずか約2週間の撮影中には、とにかく食べていったん脂肪をつけたあとで、試合にのぞむボクサーの体型になるまで体を絞り上げた。
安藤はまさに身も心もこの作品に捧げ、死ぬんじゃないかと本気で思った瞬間もあったという。撮影後は、夫がいるにもかかわらず、すべてを映画に捧げてしまったと反省し、彼に謝罪したとか。公開時のインタビューでは、《これからは、子供を産んで家族を愛することが、私のやるべきことだと素直に思えるので、今、とっても清々しい気持ちなんです》と、引退をほのめかすような発言もしている(『キネマ旬報』2014年11月下旬号)。
その言葉どおり、2017年に第一子を出産すると、育児に専念するつもりであった。そこへNHKの朝ドラ『まんぷく』(2018年)のヒロインの話が舞い込む。引き受けるか迷っていたところ、義母の角替和枝から「やらないなら、女優やめちゃいな」と後押しされて出演を決めた。子育て中の女優が朝ドラのヒロインを務めるのは史上初であった。
“妊婦の勘”で引き受けた
同じく2018年には映画『万引き家族』に主演し、映画賞を総舐めにする。キネマ旬報ベスト・テンと毎日映画コンクールでは、主演男優賞(男優主演賞)に選ばれた柄本佑とともに夫婦そろっての受賞となった。
『万引き家族』への出演を是枝裕和監督からオファーされたのは、ちょうど妊娠中だった。安藤は“妊婦の勘”で引き受けたという。その勘が間違っていなかったと彼女が確信したのは、撮影現場にスタッフが連れてきた子供たちを、周囲の大人がニコニコ笑いながら見守る様子を目にしたときだった。それまで、授乳する際も休憩時間にコソコソとしていた彼女は、その光景を見てうれしかったという。《万引き一家の話を、これだけそれぞれの家族を大事にしている人たちが撮っている。それってすごく素敵なことだし、これが是枝組なんだなと、本当に感動したんです》とのちに振り返っている(『キネマ旬報』2018年6月下旬号)。