大家は“逆ギレ”してきた
「まったく意味がわからなくて怖かったです。そのときは犯人がわかりませんでしたが、数日後、大家の母親がほかの住民の部屋のボックスに野菜を入れているところを目撃して。
急いで大家に電話をすると『そうですよ! うちの母親がやってます!』と逆ギレされました。物件を紹介してくれた不動産会社に相談しても『そうなんですか?』ととぼけるだけでしたね」
大家の母親は認知症など何らかの病気を患っていたのかもしれない。仮にそうであれば“情状酌量”の余地はあるだろう。しかし、不安を訴える住民に対してまともに取りあわず、まして“逆ギレ”するのは大家として理不尽な対応だ。
「敷金と礼金の返金に応じる」と言われたものの
林田さんが野菜詰め込み事件の犯人を妻に告げると「こんなところにはいられない。すぐに出よう」と意見が一致。これが、林田夫妻が入居から約2カ月で退去を決めた経緯だ。
「すぐに同じエリアの別の不動産屋に駆け込んで、次の家を決めてすぐに引っ越しました。たった2カ月しか住んでいなかったので、大家に敷金と礼金の返金をお願いすると、そのときは『わかりました』と言ってくれたんです。しかし、待てど暮らせど入金はなし。そこで、知り合いの行政書士に相談をして、請求に関する内容証明郵便を送ることになりました」
内容証明郵便には請求金額と入金期限も記載したが、期日を過ぎても音沙汰はなかった。すると、知人の行政書士は「出るところに出よう」と、少額訴訟を提案してきたという。
「初めはそこまで大ごとにするつもりはなかったんですけど、早めに解決するのが一番ではないかと思い、裁判所で手続きを進めたんです。裁判で証人として立ってもらう必要があったので、仲介した不動産会社の担当者にも電話をかけました。そこで僕が『裁判』という言葉を出した瞬間に慌てだしたんです。
担当者はすぐに大家に連絡したようで、請求していた20万円が即日振り込まれました。大家も担当者もスルーしてやり過ごそうと思ったのかもしれませんが、『裁判』の2文字が効いたようです」
結局裁判には至らず、無事に敷金・礼金は戻ってきたが、彼はこの経験を経て“不動産屋選びの重要性”を感じたという。
「この物件を仲介した不動産会社は、全国に展開するチェーン店だったのですが、大家さんについての情報はまったく教えてくれませんでした。把握していなかったのか、知っていて黙っていたのかは分かりませんが……。チェーン店のように取り扱う物件数が多いと、詳しい情報も入りづらいのかもしれないなと。
次に部屋選びをお願いした不動産屋さんは、地元密着型で顔が広く、とても良い大家さんの物件を紹介してくれました。これから部屋を選ぶときには、『大家さんはどんな人ですか?』と念のため事前に聞くようにしようと思います」
大家トラブルに遭わないためには、立地や部屋のスペック以外にも目を向ける必要がありそうだ。
さらに、30年前から都内で不動産仲介業を営む豊橋毅さん(仮名・52歳)は「人気エリアに物件を持つ大家には注意してほしい」と話す。