マンション価格の高騰が止まらない。かつて「億ション(=1億円以上のマンション)」が話題をさらった時代が嘘のように、今の不動産業界では2億、3億超えのマンションでないと「超高額マンション」と呼ばない。
ここでは、不動産業界に精通する牧野知弘氏が、高騰するマンション価格の謎を紐解く『なぜマンションは高騰しているのか』(祥伝社新書)より一部を抜粋。「価格が安いから」というだけで、東京近郊エリアの、いわゆる「ベッドタウン」のマンションを購入すべきでない理由とは――。(全4回の3回目/最初から読む)
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ベッドタウンの没落
都心部のマンションが高騰を続けるなか、安価なマンションがあることをご存じでしょうか。
人口の集中が進んだ首都圏でも、すこし目を移すと、まったく異なる光景が見えてきます。メディアで、新築マンションの高騰やそれに引きずられた中古マンションの高騰が強調されるいっぽう、マンション1戸が車1台分の価格で買えてしまうエリアも広がっています。
このように言うと、東京から遠く離れた地域を想像されるかもしれませんが、たとえば千葉県の我孫子市、松戸市、船橋市などです。これらは、いずれも代表的な東京のベッドタウンで、「千葉都民」などと言われた住民たちで構成されてきました。
ところが昨今、住民の高齢化と都心居住が進み、この街で育った子供たちも戻らないことから、戸建てはもちろん、マンションの資産性が下落しています。JR各駅周辺はまだしも、「駅から徒歩15分以上」「駅までバス便」「私鉄の支線に乗り継ぐ」などのエリアでは、築年数40年を超えるマンションになると、中古売り出し価格で50㎡前後の2DK~3DKが軒並み数百万円程度です。
大型団地になると、かなりの部屋が売りに出されているため、さらに価格は下がる傾向にあります。住民の多くが70代以上になり、なかには高齢者施設に入居するため、相続が発生するなどして、空き家化しているものもあります。
ベッドタウンは役割を終えると、街に人を惹きつける力を喪失します。そして、住む理由を失ったマンションは、マーケットでの価値を失います。
もちろん、築40年以上経過したマンションを建て替える動きもあり、国も区分所有法を改正して建て替えを促進する方向に舵を切っていますが、管理組合での建て替え議案に対する議決割合を緩和したところで、高齢者ばかりで年金収入に頼る住民が多いところでは建て替えはおろか、大規模修繕にも手がつけられません。