『スカーレット』で義理の息子役だった松下洸平とはこれと前後して、2018年の舞台『母と暮せば』では実の母子役で共演している。作家の井上ひさしが長崎の原爆をテーマに手がけた同作は、2021年にも再演されたが、このときはコロナ禍で無事に幕が開けられるかどうか懸念もされた。しかし、富田は《今回できなかったとしてもそれを恐れてはいないです。またやります!私は、一人の親として一人の女優として、これはやりたいと思う作品なので、できればたくさんの人に観ていただいて、二度とこんなことが日常になるような世界にはなって欲しくないと思うから、やり続けたいと思っています》と動じなかった(「ランランエンタメ!」2021年6月25日配信)。
もう一つのライフワーク
富田が出演を続ける、ライフワークともいうべき作品としてはもう一つ、出身地である福岡のテレビ西日本の制作、江口カン監督による『めんたいぴりり』シリーズがある。2013年にドラマの最初のシリーズ、2015年に続編が放送され、2019年と2023年には映画化もされた同作で、富田は博多華丸とともに終戦直後の福岡で辛子明太子を売り出した夫婦を演じた。
『めんたいぴりり』のオファーがあったとき、富田は子供が小学校に上がる直前で、これが“最後の出張”かな? と思いながら引き受けたという。現場には、子供を福岡の実家に預けて通った。最初のドラマから10年後、映画第2作『映画 めんたいぴりり~パンジーの花』の公開時のインタビューでは、《本当にスケジュール調整が大変で(笑)。「撮影が子どもの夏休みと重なりますように」と祈りながら、10年過ごしたら何とか乗り越えることが出来ました》と振り返っている(「otocoto」2023年6月15日配信)。
『めんたいぴりり』の劇中でも幼い子供を抱えながら、店を切り盛りするしっかり者の女将を演じた。とはいえ、これだけ母親役が続くとさすがに「もっと別の役をやってみたい」と思うのではないか? これについて3年前のインタビューで富田は次のように答えていた。
《若い頃は“こういう女優になりたいからこういう役がやりたい”というのもありましたが、今は“自分は作品の一部”だと思っています。そう考えるようになったのは、子供を持ったことが大きいです。仕事をセーブせざるをえない状況の中で、自分は何が好きなのか?を考えたとき、純粋に、私は芝居が好きなんだなと思ったんですよね。“どんな女優になりたいか”は、そのあたりから関係なくなりました。自分をどう使うかは監督にお任せして、オーダーを受けたことを全力で》(「mi-mollet」2021年7月1日配信)
これからの「夢」
かつて休養から復帰直後、大根と呼ばれても主役を張り続けたいと言っていた富田だが、いまや、たとえ脇役でも名優と呼ばれる存在へ着実に近づきつつあるようだ。コンプレックスだったベビーフェイスも、いつまでも若くてはつらつとした母親を演じるうえで強い武器になっている。
ただ、別のインタビューでは、今後やりたい芝居などはあるかとの質問に対し、《自分でやらなきゃなと思っている作品があります》として、具体的なタイトルは出さなかったものの、つかこうへいの作品を挙げてもいる。それというのも、2010年につかが亡くなったときは、子供がまだ小さくて舞台には出られず、それが心残りとなっているからだという。その子供もすでに高校生。いずれ遠からぬうちに、《今でも何でできなかったんだろう?と思っていて、“できることならやりたいなぁ、いつか”と思っています。体力のあるうちに(笑)》(前掲、「ランランエンタメ!」)という富田の夢がかなえられることを、楽しみに待ちたい。