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「東大王」鈴木光が“師匠”と語る「教養ってなんだろう?」

瀧本哲史×鈴木光 東大ゼミ師弟対談 #1

『四季報』を眺めているだけでは閃かなかったもの

鈴木 もう一つの宇部日東化成はどんな企業なんですか?

瀧本 ここは光ファイバーの素材を作っている会社で、素材のシェア率40%とかだったんですよ。これも通信インフラ関連ということで投資しました。今は宇部エクシモという社名になってますね。

 

鈴木 面白いですね。約20年前の「転換期」はウィンドウズ95にあったというのが。

瀧本 ハハハ、そうか鈴木さん、まだ生まれていないんだよね、1995年は。

鈴木 はい、1998年生まれですので……。

瀧本 ただ、「95年の転換」については『四季報』を眺めているだけでは閃かなかったものだと思ってます。

鈴木 どういうことですか?

瀧本 それこそ、鈴木さんが『東大王』で取り組んでるクイズ的知識が役立った……っていうと話を近づけ過ぎかな。NECシステム建設に投資しようと思ったのは、スタンフォード大学を作った、スタンフォードのことが頭にあったからなんですよ。彼は鉄道王として知られているけれど、正確にいうと「鉄道工事王」。物流インフラが大変化する時に、機を逸さずにインフラ工事を担って儲けを手にした。それじゃあ、現代のスタンフォードは……って考えて行き着いた面もあるんです。ああ、歴史を知っててよかったということの一つかな(笑)。

 

鈴木 あ、でも私も投資ってあらゆる知識を結合させて仮説と検証をする世界だなって思っているんです。だから、全然別のところにあるクイズ的な知識が、ある瞬間に閃きの着火点になることもあるんじゃないかって気はしています。それこそ、時代の転換期に気づく感性が磨かれるというか……。

瀧本 そうです、そうです。生きていくための大局観のような視点が生まれるんです。

「教養の本質」を教えてくれた1冊

鈴木 そういう視点を身につけるためにも、大学時代のうちに、いい本に巡り合って読んでおきたいと思っています。先生が大学時代に出会った印象的な本って何ですか?

瀧本 アラン・ブルーム『アメリカン・マインドの終焉』ですね。著者はイェール大学などで教えていた政治哲学者で、一大ブームになった本なんです。この中に、教養について書かれた項目があって、そこで「教養の本質とは、他の考えも成り立ちうる、ということを知ることだ」っていうことが説かれている。これは今でもその通りだと思ってます。

鈴木 社会人が教養、いわば「リベラル・アーツ」を学び直そうとする動きもありますよね。その動機、なぜ人は教養を求めるのか、なぜ勉強することは大切なのかの答えがそこにあるような気がします。

 

瀧本 何かを考えるためには、他の考えがあることを常に念頭に置かなければならない、ということです。株式市場が成立しているのは「買い」と思う人と「売り」と思う人とがいるからであって、全員が買いだと市場は成立しませんからね。それは人間関係の問題、組織の問題、社会の問題、ひいては世界の問題にしてもそう。いろんな見解がある、しかし正しい答えはどこかにある。人が様々な場面で生きていくための地図が、教養と呼ぶべき総合知の形なんじゃないかと思います。

#2 美しき「東大王」と学ぶ「生きにくい世の中を渡っていくための教養術」につづく

写真=佐藤亘/文藝春秋

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