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 車のエンジンはプラグの火花でガソリンに着火するが、ロケットのエンジンも同じでエキサイターと呼ぶ装置からの数千ボルトの高圧電流による火花をパチパチパチと数秒間飛ばし着火している。そのエキサイターは、長さわずか10センチほどの円筒型だが、ここに仕込んだトランジスタに流す電気が定格を超えていたことが第一の原因と推定された。

 第二は、小さなケースに詰め込んだ部品が振動で周囲の部品やケース内壁に接触したり配線コードの被覆の一部が振動によって剥がれショートした可能性だ。この部品は、H1ロケットの二段、LE-5エンジンに搭載して以降、200回以上使ってきたがトラブルは1回もなかったが、第三の可能性としてH3固有に開発した機器内部に想定外の電流が流れたことも疑われた。そこでこれら3点の対策を行い、H3ロケット試験機2号機は今年2月15日を「Return To Flight」とすると発表した。

 2号機の打ち上げは天候不順で2日遅れとなったため、2月17日になった。1号機の打ち上げ失敗から365日目に迎えた再挑戦。2号機が打ち上げに成功し、完璧に使命を果たした瞬間、管制室の岡田さんはエンジニアたちと抱き合った。

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岡田匡史氏 撮影・山根一眞氏

直前に実現した「ロケットの神様」と奇跡の対談

 実はこの2号機打ち上げの1カ月前、“奇跡の対談”が実現していた。今をさかのぼること30年前、1994年に日本初の国産H2ロケットを実現し、「ロケットの神様」とも呼ばれるJAXAの元プロジェクトマネージャ、五代富文さん(91)と岡田さんの対談だ。H2は大型ロケットの原点で、H3はその遺伝子を礎に作りあげた3世代目のロケットである。

 山根氏は昨年秋、10年ぶりに五代さんから連絡をもらって再会。当時、H3ロケットの開発でもがくような日々を送ってきた岡田さんに会ってあげてほしいと山根氏が伝えて、実現した。対談の一部は記事中で紹介されている。

 ほかにも、打ち上げから3日後、岡田さんが語った五代さんから受け継いだ「平常心」の境地や、新津さんが明かした仲間への熱い思いなど、山根氏の長年のロケット取材の成果が凝縮している本作「H3ロケット JAXA再挑戦の365日」は、月刊「文藝春秋」4月号(同電子版では3月7日木曜日に先行配信)に掲載されている。

山根氏のYouTubeチャンネルでは「H3ロケット2号機打ち上げ 大轟音で体感(20240217・山根一眞)」などを公開しています。H3打ち上げの時の「大轟音」を体感する事が出来ます。

文藝春秋

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H3ロケット JAXA再挑戦の365日