3月いっぱいで放送作家業からの引退を発表した鈴木おさむ氏が「小説『くじけずにがんばりましょう』」を3月8日(金)発売の月刊「文藝春秋」4月号で発表する。「小説『20160118』」、「小説『0909』~そして、みんなで、あの日に、ピース~」に続く第3弾だ。

 小説は、2011年3月11日の東日本大震災の当日から始まる。主人公は「オサム」。国民的人気を集める5人組の男性歌手グループが出演するバラエティー番組の放送作家を務めている。

 鈴木氏は20年以上にわたり、「SMAP×SMAP」(フジテレビ系)の放送作家を担当してきたが、物語は震災から10日後の“伝説の生放送”と、被災地から中継された「27時間テレビ」の舞台裏を想起させる。

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 以下、「小説『くじけずにがんばりましょう』」から抜粋して引用する。

©文藝春秋 カット・城井文平

電話で「日本が壊れていっちゃう」

 バラエティー番組もドラマも全部報道番組に差し変わっている。テレビに映し出される、津波が日本を飲み込んでいく映像。

 かつて経験したことのない未曾有(みぞう)の大災害の被害にあっていることが分かる。

 仕事で海外にいる妻から心配の電話が来た。外国のニュースで流れた日本の映像がとてもショッキングで、津波や火災の映像を見て、「日本が壊れていっちゃう」と思ったと泣きそうになっていた。

 まさに日本が壊れていっているのだと自分でも思った。

 でも「大丈夫だよ」と言うしかない。妻はこのまま日本に戻ってこない方がいいんじゃないかとさえ思ったが、その言葉は言えなかった。

 妻との電話を終えると、春田から電話が来た。

 いつまで報道番組のままなのか? 分からないと言う。月曜日の放送もどうなるか分からないと。

 時間とともに増えていく被害者。想像をどんどん越えていく。

 時間が経つに連れて被害状況の甚大さに打ちのめされていく。

経験したことのない史上最悪の事故

 そして……。

 福島第一原発のニュースが入る。

 地震だけではなかった。原子力発電所の事故。

 映画以外でこんなニュースを聞くとは思わなかった。絶対ないって思っていた。

 テレビに映し出されたそれは、爆発し煙を上げていた。

 日本人が経験したことのない史上最悪の事故。

 この事故が起きても、どういう事故なのか? このあと、どうなるのか? 被害状況などは明らかにされず、SNSでは様々な噂が日本中を飛び回った。

 それを見て、思った。

「逃げなきゃいけないんじゃないか」

 土曜日、

 日曜日、

 月曜日、

 テレビにバラエティーが戻ることはなく、繰り返し流れる津波の映像で嫌になる。

 破壊された日本の様と尋常じゃなく増えていく被害者の数。

 福島第一原発では事故が収まる様子がない。そして何が起きているのかが明かされない。

 放射能が日本に放出されていくんじゃないかというかつて感じたことのない不安と恐怖。

 もうバラエティーなんか二度と放送されなくなるんじゃないか?

 それどころか、東京に、いや、日本に住めなくなるんじゃないか?

 滅多に電話の来ない知人から電話が来た。

「オサムさん、東京にいますか?」

 原発の爆発により、放射能に汚染されるという噂が一気に広まり、僕がどうしているのか知りたかったのだろう。

 「東京から逃げますか?」

 と聞かれたが、やっぱりそう考える人が増えているのだという現実を感じた。でも、「逃げないよ」と強がる自分がいた。

「本当に大丈夫ですかね?」

 そう言われても、果たして噂なのか事実なのかは、誰にも分からない。 春田から電話が来た。この日の放送はなくなり、水曜日と木曜日の収録もなくなったという連絡だった。