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《“小説SMAP”第3弾》鈴木おさむが新作「くじけずにがんばりましょう」を月刊「文藝春秋」で発表

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「イイジマサンが生放送をやりたいって言ってます」

 妻が日本に帰ってきた。

「もうバラエティーは出来ないかもしれない。テレビどころじゃないかもしれない」

 妻に言った。

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 つまりそれは妻の仕事も僕の仕事も成立しないということだ。

 本当にそう思った。

 日本のテレビを見て被害を知った妻が、僕の言葉を否定することはなかった。

 SNSで日本の芸能人・著名人が続々関西の方に逃げているという情報が目に付いた。

 誰がどこにいるという目撃情報が入ってきていた。

 大阪や福岡、沖縄。

 テレビの収録もない。身の安全のため、東京を離れていると。

 やっぱり少なくとも東京にはもう住めないのかもしれない。

 ごまかしていた自分の気持ちにごまかしがきかなくなった。

 テレビ番組の会議もすべてがなくなっていた。放送がないし収録もない。

 自分もこのまま東京にいないほうがいいのかもしれない。

 我慢出来なくなった。

 ネットを開くと、飛行機も新幹線のチケットもだいぶ埋まっていたが、ギリギリ翌日の 沖縄行きのチケットが2名分残っていた。

 そのチケットを予約した。

 罪悪感はあった。だけど、感じたことのない不安と恐怖で押し潰されそうになっていたから。

 ずっと自分をごまかしていたからこそ、一気に吹き出した。

 予約を完了したあとに、春田から電話があった。

 電話に出ると春田は言った。

「来週の月曜日にイイジマサンが生放送をやりたいって言ってます。今晩、みんなで会えますか?」

 生放送?

 こんな状況で?

 信じられなかった。