元ジョッキーで、現在は調教師の福永祐一氏が今も忘れない「大恩人である調教師の言葉」とは? コントレイルとの無敗の3冠達成、JRA史上最長の13年連続年間100勝、そして2024年3月には調教師デビューが話題の福永氏による初の著書『俯瞰する力 自分と向き合い進化し続けた27年間の記録』(KADOKAWA)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
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当時SNSがあったら、前に進めなかったかもしれない
たらればの話だが、もし当時、現代のようにSNSが発達していて、競馬を見ている人たちの心ない言葉がもっと簡単に目に入ってくるような時代だったら……。はたして自分は強い気持ちを持ち続けることができただろうか、と考えたことがある。
ずいぶん経ってから先輩に「お前、デビュー当時はセンスなかったよな」と笑い話の一つとして言われたことはあるけれど、先ほども書いたように、当時はバカにされていることを察しつつも、直接的な言葉をぶつけられるようなことはなかった。だからこそ、心が折れるまでに至らず、自分なりに発奮材料として消化できたところもあっただろう。
もし現代のように、たとえ間接的にであっても、自分に対する心ない言葉をダイレクトに目にしてしまう機会が頻繁にあったとしたら、おそらくもっと思い悩み、当時のように強い心を持って前に進むことはできなかったかもしれない。
今になってわかることだが、「周りの人が自分をどう見ているか」という情報が入ってこない時代、SNSというツールがまだなかった時代に、騎手人生をスタートさせることができたのはラッキーだった。そこはちょっと時代に救われたような気がしている。