「あいつ、センスないな」「騒がれているけど、大した騎手にはならないぞ」
かつて実力よりも人気が先行していた、新人ジョッキー時代の福永祐一氏。ときには自身の騎乗を見て、「俺、センスないな」と思ったことも……。まだ未熟だった時代を氏はどう乗り越えたのか?
コントレイルとの無敗の3冠達成、JRA史上最長の13年連続年間100勝、そして2024年3月には調教師デビューが話題の福永祐一氏による初の著書『俯瞰する力 自分と向き合い進化し続けた27年間の記録』(KADOKAWA)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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騎乗する自分の姿を見て「俺、センスないな」
デビュー2週目からも順調に勝ち星を積み重ね、3月2日のデビューから約1カ月、第1回中京競馬で12勝を挙げ、いきなり開催リーディングを獲ることができた。
デビューしたばかりの新人がいきなり開催リーディングを獲るなんて、古今東西、あり得ないことだろう。それだけ北橋先生が馬を集めてくれていたからにほかならず、それがわかっていたから、浮かれるような心の隙間なんてこれっぽっちもなかった。
それどころか、レース後のルーティンとして、検量室にあるモニターで自分の騎乗を見直しているうちに、気づいてしまったことがあった。
「俺、センスないな」
センスがあるジョッキーというのは、パッと馬に乗ったときに安定感があり、騎乗フォームも美しい。要は“鞍はまり”がいいのだ。
自分も、走路を1頭ずつ走ることが多かった競馬学校のときは、慌てることなく、それなりに格好がついていたはずだが、多頭数で競う競馬となると必要以上に気持ちが入って舞い上がり、勝負どころでへっぴり腰に。自分のそんな映像を繰り返し見ていると、センスのなさを自覚せざるを得なかった。