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 同業者であるジョッキーが見れば、バランスの良し悪しや下半身の安定感の有無など、ひと目見ればすぐにわかる。先輩となればなおさらで、いつの日からか話しかけても相手にされず、陰でクスクスと笑われていることに気づいた。

「あいつ、センスないな」「騒がれているけど、大した騎手にはならないぞ」

 そんなふうに、みんな思っていただろう。直接的な言葉をかけられたわけではないが、その場で先輩たちの雰囲気を見ていればわかる。

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 実際、30代後半になってから四位(洋文調教師)さんと対談したとき、「先輩たちは自分のことをどんなふうに言ってたんですか?」と聞いたら、「『ひでぇーな』と(笑)。何を言っていたというより、クスッと笑っていた感じかな」と言われた。

 思ったとおりだった。

 福永洋一の息子がデビューするとなれば、先輩たちも当然のごとく注目する。そんな中で実際に騎乗を見た結果、「こいつはすぐに消えるだろう」と思った先輩も少なくないはずだ。

 そんなこともあって、当時の自分の技術にはコンプレックスしかなかったわけだが、幸いなことに、落ち込んでいる暇も、腐っている時間も、誰かに泣きごとを聞いてもらう余裕すらなかった。

 とにかく北橋厩舎と瀬戸口厩舎の馬は全部自分に乗せてくれるし、ほかにも先生たちの尽力でどんどん騎乗依頼が入ってくる。新人にして1日10鞍は当たり前。予想紙では印がついていない馬でも、自分が乗ると人気になる、なんていう現象もあった。

フォームの改善は後回し、まずは戦術スキルを磨いた

 だから、笑われようがバカにされようが、それどころではなかったというのが正直なところで、今となっては、そうした状況に救われた部分もあったのかもしれない。とにかく、「どうやって結果を出すか」。考えていたのは、その一点だった。

 なにしろ北橋先生と瀬戸口先生は、ほぼ無条件に新人の自分を乗せてくれるわけで、勝たないことには、間違いなく先生たちに迷惑をかける。そうならないためには、どうするべきか──。

 次々と騎乗依頼が舞い込む中で、悠長に構えている時間はなかった。