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「それは1円にもなりませんね」余計なことまで言ってしまう、上手く取りつくろえない…山下智久(38)の“嘘がつけない姿”はなぜグッとくるのか

2024/03/12
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“脱・アイドル俳優”を印象づけた

 祟りのせいで商売道具である“嘘”がつけなくなってしまった不動産営業・永瀬財地(さいち)(山下)を主人公にした『正直不動産』は、それまで「不動産事情=小難しい」「不動産営業=なんとなく胡散臭い」というイメージを逆手に取り、それぞれの信念に基づいて不動産業界で働く人々を描いた痛快お仕事ドラマ。

 余計なことまで言ってしまう永瀬は毎回各方面から怒られているのだが、物事を上手く取り繕えないその姿には人間味があり、飾り気のない等身大のキャラクターは、山下の“脱・アイドル俳優”を印象づける一作となった。

©getty

 今夜クライマックスを迎えるシーズン2では、かつて永瀬が師匠と崇めていた神木(ディーン・フジオカ)が、天敵であるミネルヴァ不動産に加わり、史上最強の敵として立ちはだかっている。永瀬が一心不乱にやってきた“正直営業”の真価が問われる続編だ。

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 原作の同名漫画は現在も連載中で、原案は2006年に山下主演で実写化した漫画『クロサギ』などの夏原武が手がけている。シーズン1終了後に大反響を受けて放送された特別番組『正直不動産 感謝祭』には、夏原だけでなく、脚本の水野光博や作画の大谷アキラ、さらには担当編集者もコメントを寄せた。原作サイドとテレビ局におけるコミュニケーションの難しさを改めて痛感する今、『正直不動産』は理想的な実写化作品になったのではないだろうか。

原作漫画の『正直不動産』 ©大谷アキラ・夏原武・水野光博 / 小学館「ビッグコミック」連載中

主人公の“覚悟”が山下の独立と重なる

 ドラマ『正直不動産』の魅力はなんといっても、山下演じる主人公・永瀬財地だ。客に平気で嘘をつき成約をとるエース営業だったが、祟りにより成績が急落。憧れのタワマン生活から移らざるを得なくなり、ボロアパートで心機一転仕事に励む永瀬の覚悟は、大手芸能事務所から独立し、後ろ盾なしに新たな道を切り開こうとする山下自身と図らずも重なる部分がある。

 永瀬と山下には他にも共通点がある。それはシリーズを通して出演している山﨑努の存在だ。

 先述したTBS『クロサギ』(ドラマ)やTBS『最高の人生の終わり方~エンディングプランナー~』(2012年)で共演し、山下にとっては「俳優の概念を教えていただいた大先輩、大師匠」だという。『正直不動産』では、寡黙な和菓子職人・石田努を演じ、シーズン1の記念すべき第1話のゲストとして登場した。

山下智久が「大先輩」と慕う山﨑努 ©文藝春秋

 ドラマ版では、店を畳んでアパート経営をしようとする石田が娘に連れられて、永瀬の勤める登坂不動産を訪れる。そこで永瀬が提案したのが、30年一括借上保証の「サブリース契約」だ。不動産会社に賃貸物件を一括で管理してもらい、管理人は毎月定額の家賃保証を受けるシステムである。

 契約はトントン拍子に結ばれる……はずだったのだが、地鎮祭で勝手に祠を取り壊した永瀬は、嘘をつこうとすると祟りによる“風”が吹き、本音しか話せないようになる。永瀬の正直不動産人生はここから始まってしまうのだ。

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