「医師国家試験の合格率は東海大学に次ぐワースト2位。もちろん、国家試験の合格率だけで教育力を測るのは酷な話ですが、ほとんどの新設私大に敗けている現状は看過できません。
たとえば、優秀な教授をスカウトし、教授数を大幅に増やすなどの改革で教育の質を飛躍的に向上させ、“新御三家”とまで呼ばれるようになった順天堂大医学部など、歴史と伝統に甘んじることなく他所の成功事例に貪欲に学ぶ姿勢も必要です。また、日本大学病院の経営改革も課題でした。順天堂医院や東京医科歯科大学病院など、同じ御茶ノ水で立地上も競合する病院といかに差別化するか。総合大学の強みを生かした総合診療の充実、理工学部との“医工連携”によるDX化推進など様々な施策が考えられました」
「学部のことは学部に任せるのが筋ではないですか」
数々の構想に胸を躍らせながら、いざ改革に乗り出そうとした和田氏が直面したのが、日大内部に立ちはだかる“壁”の存在だった。
「このままじゃ医学部は赤字の垂れ流しで、日大の経営にとって非常に厳しい状況にあります」
「順天のようにある程度、教授の数を増やして、外来診療にも力をいれていただきたい」
そうした和田氏の会議での提案を酒井学長はこう一蹴したという。
「学部のことは学部に任せるのが筋ではないですか」
私立大学では一般に「教学」と「経営」は分離され、教育や研究は学長、経営は理事長が担う慣習がある。ところが、権力を肥大化させた田中英壽前理事長が学部人事や学生の処遇まで差配し、学校全体が私物化され、不正の温床となってきたことが日大の大きなトラウマになっていた。
腹の底では現状維持を望むメンバーばかり
「結果、我々“新参者”の経営陣が遵守徹底を求められたのが、“教学と経営の分離”だったのです」
教学と経営には、それぞれ最高意思決定機関として、理事長を議長とする「理事会」と、学長を議長とする「学部長会議」とがあり、常務理事はどちらにも参加する。ところが、専制政治への反省から理事会のメンバーは一新された一方で、学部長会議のメンバーが刷新されることはなかったのだ。
「学部長に女性は一人もいません。内実を見ても、『改革』とは名ばかりの慣例的な申し送り事項ばかり。何か提案すれば『学部のことにクビを突っ込むな』と一蹴される。学部再編や新設など既得権益にかかわる改革案は議論すらできない。腹の底では現状維持を望むメンバーばかりでは、改革がうまくいくはずもありません」
ほかにも、違法薬物事件の対応に奔走する執行部の内幕や、“教学支配”の実態について明かした「日大病は治らない」は、2024年3月8日発売の月刊「文藝春秋」4月号と「文藝春秋 電子版」(3月7日公開)に掲載される。
日大病は治らない