高瀬 でもきっと、新太を捜す過程で琴美が成長する話なんじゃないかという予想を立てて読んでいました。実際、いろんな事件を越えていくなかで、琴美には変化があって、そこで琴美は怖くなくなったんですけど、ミアは怖いままだったんですよ。ミアは最初から最後まで怖かった。でも最初の怖さは、琴美に対して自覚的に「あなたは弱いから私が守ってあげる」っていう「支配」の怖さだったんですが、最後のほうはむしろミアのほうが琴美に依存してしまっているというふうに私は読んだんですね。ミアは自分の考えるミアであるために琴美が必要で、自分が強くあるために弱い人を求めている。最後には警察沙汰まで起こしてしまって、救済が必要なのはミアのほうだと思った。いちばん怖かったのが、琴美に「もう自由になっていいんだよ」って言われて、それは琴美の成長から出た言葉なのに、それに対してミアは、「だから私は、琴美を選んだのかな」って返すところ。どこまで行ってもこの子は「自分が与える側だし選ぶ側なんだ」っていう意識が変えられないんだなと。もうミアを助けてあげたい! ミアがいちばん怖いままじゃん! ってなって。
大前 ありがとうございます。めちゃくちゃ丁寧に読んでくださって、自分はそんな話を書いたんだと改めてわかったような気がします。
高瀬 でもまずはストーリーが面白かったです。なんでミステリー仕立てにしたんですか?
探偵の推理ショーは、優しい
大前 探偵っぽい人物が推理ショーをするところを書きたいなとまず思ったんです。探偵って優しいなとずっと思ってて。犯人がやったことを、本人や関係者の前で、犯人の心理や犯行手順を追いながら説明してあげるじゃないですか。それって加害者側の人に「私はあなたの理解者ですよ」って言ってあげてるようなことだなと。犯人は単に捕まるよりも、探偵に推理ショーをしてもらってから捕まったほうが、たぶんその先の人生が豊かなものになるんじゃないかなというふうに考えてて。
高瀬 え~~そんなふうに考えたことなかった。だけど、言われてみれば、あっさり犯人逮捕! って連れていかれるより、「ここであなたは戸惑った、そして……」みたいな感じで謎解きしてもらって、ほかの人にも犯人に何があったか共有してもらったほうが、その後の人生が豊かになると……めっちゃ面白いです。