大前粟生さんの『チワワ・シンドローム』を読んだ高瀬隼子さんの第一声は「待って、こわいこわいこわい」。対等なはずの友人関係に潜む「支配」を鋭く描き出した、ミステリー仕立ての作品です。

 私たちを取り巻くそのような“怖さ”を絶妙に掬い取って小説にするお二人の創作の秘密に迫る対談をお届けします。(全3回中の2回目/司会進行=U-NEXT・寺谷栄人/撮影=松本輝一)

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主人公が怖かった『チワワ・シンドローム』

高瀬 では『チワワ・シンドローム』のお話を。主人公の田井中琴美さんは、自分にすごく自信がなくて自己評価が低いんですね。「私なんかが」って言っちゃうタイプの女性で。恋人になりかけてる男性の三枝新太さんがある日、急に連絡が取れなくなっちゃう。新太どうしたってなって、LINEとか送っても全然既読にならなくて落ち込んでたときに、昔からの友だちの穂波実杏さんが「琴美大丈夫?」って来るんですね。ミアはすごく美人で自分にも自信があって、琴美とは真逆なんです。ミアはインフルエンサーをしていて、自分に自信がない、「死にたい」って言ってる子たちを「あなたは大丈夫だよ」と優しく守ってくれるような人。琴美とミアが二人でいなくなった新太のことを捜しはじめるんですが、世の中では〈チワワテロ〉が起こる。新太がいなくなる前に、新太のシャツの袖のところにチワワのピンバッジがついてたんですが、同じように街中でもチワワのピンバッジが800人くらいの人につけられるっていう〈チワワテロ〉が起こって。でもどういう基準で選ばれてつけられたのかがわからなくって、新太捜しと〈チワワテロ〉の謎解きが並行して進んでいく。だから続きが気になって一気読みした方が多いんじゃないかと思います。

 

高瀬 ストーリーはミステリー仕立てでドキドキワクワクするんですけど、めっちゃ怖かったんですよ、私。もちろんストーリーはホラーじゃないし、誰かを傷つけたり殴ったりということも起きないので、そこは怖くない。新太がいなくなったのも怖いけど、新太は自分の意志でいなくなっているので事件とかじゃない。でも「人間」が怖かったんです。

 私は最初から、主人公の琴美が怖かったんです。高校時代にミアから「いつまでも、弱くて可愛いままでいてね」って言われたその言葉をずっと心のお守りのように思ってるという描写があって。そう思いながらずっとミアとつき合ってるこの子怖い! って。