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先祖代々のマサイの土地に他民族が大勢やってきて…

――最近の議題にはどんなものがありましたか。

永松 私たちの地域では、土地の問題が一番多いですね。象徴的だったのは20年くらい前から、マサイの地域に他の農耕民族が土地を購入したことで、少しずつ民族大移動が起きたんです。

 子どもが学業を進めて行くに連れ、まとまったお金が必要となり、大きな土地の一部を切り売りするマサイが増えてきて、その土地を近隣の農耕民族が買うようになりました。マサイにとってはほんの一部の土地でも、その民族にとっては100人くらいでも生きて行ける土地だったので、徐々に他民族の人口が増えていきました。

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 マサイは牛を飼うので必然的に広い土地が必要ですが、農耕民族だとそこまで面積が要らなくて。だから、マサイなら5人しか住めない、猫のひたいくらいと思っていた土地に、100人もの他民族の人がやって来てしまったのです。

――土地の売買という意味では、合法的に行われたものなので問題ないわけですよね。

永松 そうです。でも、先祖代々のマサイの土地に他民族が大勢やってきたことで、結果として、マサイ族より人口が増えてしまったんです。他民族の有権者数が上回れば、国会議員の選出だって有利になるでしょう。

 目先の利益で深く考えずに土地を切り売りしてしまったら5年後、10年後はどうなるのかと、マサイの牧畜中心とした暮らしが出来なくなる危機感を抱いた長老たちが話し合いをした、ということです。

――結果はどうなったのでしょうか。

永松 長老たちの会議の末、今後一切、他民族には土地を売らないことになりました。

 現代的な法律でいえば、土地を買った人がそこに住むことには何の文句もつけようがないですから、国会議員や県議会議員に頼んでもどうにもなりません。だからこそ、地域の人たちが自分たちで何を守っていくかを常に考え、話し合いながら決めているわけです。

基本的に結婚しない女性はいない

――長老はだいたい50代以上の男性ということでしたが、マサイの女性は地域とどういった関わり方をしているのでしょうか。

永松 今の時代と逆行しますが、女性は基本的に家のことを担います。

 女性は男性と人生区分が多少違って、自分自身より、男性と結婚して人生が変わったりとか、子どもを持つことでステージが変わるというように、何かと接触することによって区分が変わる、といった考え方ですね。

――結婚をしない、子どもを持たない女性はどうなるのでしょうか。

永松 基本的に、結婚しない女性はいないんです。これも、今の世界的な潮流とはまったくかけ離れた考え方だと思います。子どもを生まない人でも、第一夫人、第二夫人となって、別の妻との間に生まれた子どもを自分の子として育て、母として成長していくんですね。

2021年エウノト(成人になる儀式)の時の第一夫人とジャクソンの母と

――伝統的な生き方ではない、別の生き方をしたい人もいるのでは?