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〈移住30年〉マサイ族の第2夫人となった日本人女性(56)が明かす、マサイの意外な死生観「死んだ人のことを口にするのはタブー」「遺体をハイエナが片付けていた」

〈移住30年〉マサイ族の第2夫人となった日本人女性(56)が明かす、マサイの意外な死生観「死んだ人のことを口にするのはタブー」「遺体をハイエナが片付けていた」

マサイ族の妻・永松真紀さん#2

2024/04/07

genre : ライフ, 社会

note

 マサイ戦士のリーダーと2005年に結婚し、第二夫人となったツアーコーディネーターの永松真紀さん(56)。

 ケニアとタンザニアに暮らす少数民族・マサイ族に惹かれ、ケニア移住歴30年弱になる永松さんに、その独自の文化について聞いた。(全2回の2回目/前編を読む)

夫のジャクソンさんと永松さん

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ライオンを仕留めた戦士は、歌の中で永遠に名前を歌い継がれる

――永松さんの夫で伝統的なマサイ戦士だったジャクソンさんは、7頭のライオンと1頭の象を仕留めたことがあるそうですね。

永松真紀さん(以下、永松) ライオン7頭のうち5頭は、村の家畜がライオンに襲われていたため害獣駆除として行ったもので、残り2頭は、儀式として仕留めたものですね。

――儀式とはどういうものですか?

永松 前回お話ししましたが、マサイには「少年」「戦士」「大人」「長老」という独自の人生区分がありまして、その中の戦士時代の集大成として行うのが「ライオン狩り」です。要は、「僕たちはもう子どもじゃない、立派な強い男だ」という証明ですね。

 実際、ライオンを仕留めた戦士は英雄になりますし、マサイで地域にまつわるネタや伝説的戦士のことを即興で歌っていくのですが、その中にジャクソンの名前が登場することもあります。

――ジャクソンさんの名前も即興の歌の中に度々出てくることがあるんですね。

永松 歴史に名を残すジャクソン・オレナレイヨセイヨと申します(笑)。ライオンだけでなく、他の部族に何回も牛を強奪されてしまっている地域もありますが、村に強い男がいるとそれだけで抑止力になるようで、うちの集落は無事なんです。私と結婚したことでナンパな奴と思われたら困るんですけど、うちのジャクソンは下手な警備会社よりも強力なセキュリティになるのではないかと。

 そもそも、ライオン狩りの始まりはおそらく、牧畜中心のマサイにとって脅威となるライオンを強い戦士たちが駆除する、という意味で始まったんじゃないかと思います。

槍と短剣1本ずつだけでライオンに戦いを挑む

――ライオン狩りの儀式はどんな風に行われるのでしょうか。

永松 戦士時代を終えてこれから大人になります、という節目に「エウノト」という儀式があるのですが、その前に、ライオン狩りを行います。

2021年息子たちのエウノト

 至近距離で正々堂々戦うことに意味があるので、飛び道具はNG、寝込みを襲ってもダメ。ただ、起きているライオンでもマサイ戦士を見ると大体、逃げていくそうです。

――ライオン側もマサイ戦士を警戒している?

永松 そうみたいです。なので、逃げない、寝ていないライオンを見つけたらけしかけて戦いを挑むらしいんですけど、使っていい道具は槍と短剣1本ずつだけ。

 非常に危険なので、ジャクソンも一度、ライオンに仲間を殺されています。その場で噛みつかれて太ももの血管が切れてしまったそうで、仲間の遺体を運んで帰るのがとてもつらかった、と話していました。

――ライオン狩りができなければ大人になれないのでしょうか?

永松 エウノトを経れば全員が「戦士」から「大人」になれるので、落第みたいな概念はないですし、ライオン狩りも必須条件ではありません。

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