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〈移住30年〉マサイ族の第2夫人となった日本人女性(56)が明かす、マサイの意外な死生観「死んだ人のことを口にするのはタブー」「遺体をハイエナが片付けていた」

〈移住30年〉マサイ族の第2夫人となった日本人女性(56)が明かす、マサイの意外な死生観「死んだ人のことを口にするのはタブー」「遺体をハイエナが片付けていた」

マサイ族の妻・永松真紀さん#2

2024/04/07

genre : ライフ, 社会

note

 そもそも、今は学校に通っているマサイが多いので、修行もライオン狩りも難しくなってきています。約10年ごとに行われるエウノトでも、直近の2012年、2021年は誰もライオンを仕留めていません。

 それと、ケニアの観光資源としての野生動物保護が厳格になってきているので、ライオン狩りという儀式自体がなくなりつつあるのが現状です。ただ、ジャクソンの時代でもライオン狩りに挑戦する戦士も多くはないし、仕留めた人も一握りです。相当な勇気と体力がある人しか狩りに行くこともできないんです。

マサイ戦士の「イケてる」基準

――先ほどからお話で出てきている「エウノト」とはどんな儀式ですか?

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永松 数ある儀式の中でもマサイの男にとって最重要とされるのが、成人式的意味を持つエウノトです。1週間くらいかけて行う、それはそれは盛大かつ厳かな儀式です。

 戦士時代は、同期の仲間と毎日毎日、牛を屠殺してその体の仕組みを勉強し、その肉をいっぱい食べ、森にこもって修行をして。同時に、髪の毛を長くしてオシャレも楽しむ、最も厳しく華やかな青春時代が戦士時代なんです。

 だから、マサイ戦士ってめちゃくちゃオシャレだし、無駄なものを食べていないので身体も引き締まっていて、本当に美しいんですよ。

エウノト儀式

――「イケてる」マサイってどういう感じなんでしょう。

永松 男女共に、装飾品の多さですね。鼻が高いとか目が大きいとか体型がどうとかは関係なくて、いかに自分を美しく着飾っているかが、素敵かどうかの基準です。

 ただ、男性の場合、やっぱり背が高い方がイケてると思われるみたいですが、マサイ戦士の場合、一番大切なのは、高くジャンプが跳べるかどうか、ですね。

跳ぶことに意味なんてない

――あの有名な、垂直に高く跳ねるジャンプですよね。高く跳べば跳ぶほどカッコいいんですね。

永松 そうです。「キャ~!イケてる!素敵!」となりますね。ただ、あれは高さを競い合うダンスの一部で、戦士を卒業した大人はピョンピョン跳ばないです。もし大人がやってたら「この人、ヤバくない?」です。ただ、観光客向けのマサイ村だと、爺さんも“商売ジャンプ”してますけど(笑)。

――そもそもジャンプにはどんな意味があるんですか?

永松 「天とつながるため」とか言いたいけど、そういう意味は全くなくて。ジャクソンに「跳ぶことになんの意味があるの?」とか「どうして赤い布を着ているの?」とかって聞いても、「別に意味なんてない。昔から跳んでるから跳んでる」「赤い布が好きだから」しか返ってこないです。

 

――つい意味を考えがちですけど、マサイ族にとっては自然なことといいますか。

永松 昔、ジャクソンが日本の人に「ちょっとジャンプを見せてください」と言われたことがあったんですけど、「意味なく跳べません」と断ってました。その意味というのは、儀式とかで精神を盛り上げて盛り上げて盛り上げて跳ぶ! というものなので、「見たいから跳んで」といって跳べるものじゃない、ということなんですね。

――ジャンプは戦士時代特有のものという話がありましたが、マサイは自分が生きている時代ごとに、やることが明確に決まっている?

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