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〈移住30年〉マサイ族の第2夫人となった日本人女性(56)が明かす、マサイの意外な死生観「死んだ人のことを口にするのはタブー」「遺体をハイエナが片付けていた」

〈移住30年〉マサイ族の第2夫人となった日本人女性(56)が明かす、マサイの意外な死生観「死んだ人のことを口にするのはタブー」「遺体をハイエナが片付けていた」

マサイ族の妻・永松真紀さん#2

2024/04/07

genre : ライフ, 社会

note

死んだ人のことを口にするのはタブー

――お葬式はあるんですか?

永松 アフリカの民族は、結婚式より何より葬式が一番重要という民族は多いですし、日本でいうお盆みたいなものもあるんですけど、マサイの場合にはそれらが全くありません。

 生きているうちはいろいろ儀式があるし、長老はとても尊敬されますが、死んだ瞬間、何もなし、です。

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――故人の思い出を語り合うこともない?

永松 思い出話は一切ないです。何なら、写真も全部捨てます。死んだ人のことを口にするのは縁起が悪いとされているので、昔、マサイの未亡人の方に、「亡くなったパートナーの方はどんな方だったんですか」と聞いたら、「死者のことを話すのは良くないことなので、その質問はやめてもらえますか」と言われました。

――お墓はあるのでしょうか。

永松 いえ、お墓も作らないですし、本当にただ、埋めるだけ。手も合わせないです。もっと昔は埋めもせず、ハイエナが片付けをしていたそうです。

 ハイエナって死肉を何でも食うので、「サバンナの掃除屋」と呼ばれる動物なんですね。例えばライオンがシマウマを食べて骨が残ったら、それも全部片付けてくれるのがハイエナです。

 マサイというのは野生動物界の一部であって、人間も動物と同じ。人間だけが特別ではないからこそ、ハイエナが片付けることも当たり前だったわけです。

 

夫が長老になる儀式を見て、またマサイの文化にハマる

――皆さん、世代ごとに役割を負っていて、個人主義とはまったく違う考え方ですよね。

永松 これも先進国とは逆行する考え方でしょうけど、ジャクソンのような根っからのマサイの人がよく言うのは、人間は個人として生まれてきたのではなくて、地域の一員として生まれてきたのだと。マサイにとって「生きる」ことはコミュニティの一員として責任を果たすための「生」。だから、死んだらすべて終わりなんです。

――20年弱もマサイと暮らす永松さんでもまだまだマサイは興味深いですか。

永松 一昨年、ジャクソンが長老になる儀式を見て、またハマりましたね。日本では年をとることはあまり歓迎できない風潮があるかもしれませんが、マサイでは、皆が早く年をとりたい、長老になりたいと思っていて、若者たちが年寄りを尊敬しているんです。

2022年長老昇格儀式

 逆に、その若者たちが長老になるまで指導する責任をジャクソンたち今の長老が負っていて、ずっと死ぬまで仕事がある。そう考えたらマサイの人生って素敵すぎると思ったし、まだまだ自分にも知らないことがたくさんあるなと思っています。

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