そうして大きく太らせた牛を市場で売って、1頭あたり5万円ゲットできたら、そのお金で子牛を3頭買い、また育てて大きくして売って……というかたちで、牛を転がして、財産を増やしていくんです。
皆からの人望の厚い人が各世代のリーダーに
――豊富な土地と牛を持つような経済的に強い人は政治的にも力を持っているのでしょうか。
永松 それはないです。さっき少し話しましたけど、マサイでは年齢ではなく時代ごとに人生を分ける独自の仕組みがあって、「長老」の時代にいる、だいたい50代以上の男たちがミーティングで物事を決めていくんです。
経済的に強い人というのは、家族の歴史が古かったり、大きな一族で財産がたくさんある人を指し、たしかに存在感を示します。ですが、物事を決めて行く時に、経済的な力は関係ないです。
――選ばれるものではなく、ある年代になると誰もが長老になる?
永松 そうです。「長老」とは権力者ではなく、「年寄」「年配者」という意味なので、齢を重ねると全員、長老に属します。
マサイには「少年」「戦士」「大人」「長老」というエイジグループがあります。スワヒリ語で「リカ」と呼ばれるこの同期たちは一生、一緒に成長していくんですけど、そのリカの中でリーダー的な存在がいるくらいですね。
それも、絶大な政治力を持つわけではなく、日本でいうところの「まとめ役」もしくは「リーダー」でしょうか。とても尊敬されていますので、軽く選ばれるようなものではありません。夫のジャクソンは今まさに長老の時代に入りまして、その世代のリーダーでもあります。
――長老の中のリーダーが独裁的になることもないですか。
永松 そりゃあ、一世代に何百人といますから、一人や二人、嫌なヤツはいますよ。うちの隣の集落に住んでいるじいさんなんて、めちゃくちゃ強欲でケチですし(笑)。でも、長老の会議は全員がOKとならないと終わらないから、独裁的にはならないんです。
あと、各世代のリーダーは、やっぱり皆からの人望の厚い人がなります。
会議ではみんなが納得するまで話し合い
――日本だと町内会に参加していない人が多いですが、長老の会議はどうですか。
永松 マサイはものすごく広い土地に放牧しながら住んでいるので、普段あまり人と顔を合わせないんですね。だから、ミーティングとなると「イェーイ」ってウキウキして行ってますよ。男同士の“おしゃべり”という娯楽の一部ですよね。
――めんどくさいものではないんですね。
永松 楽しみでもありますし、そもそも、マサイの地域の人にとっては死活問題となるような大切なことを話し合う会議だから、そこに参加するのは、自分たちのことは自分たちで決める、この文化を守るんだ、という自覚があるからでしょう。
そして先ほども話したとおり、多数決は存在しないので、本当に最後の最後まで、みんなが納得するまで話し合いますから、それはそれは、何日もミーティングが続くのです。