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踊り子デビューから数年間は正反対の世界で生活

 踊り子と並行して勤めていたのは、「女性のための本屋」というコンセプトで生まれた、日比谷の書店だった。フェミニズムの棚が充実し、お客さんもスタッフもほぼ女性という、特殊な環境だ。そのため、生理で辛い日は無理せず休もう、子供ができたら育児休暇を取ろう、という風潮があり、そのことを当たり前と思える、女性にとって天国のような職場であった。実際に生理痛がひどいスタッフは、毎月必ず欠勤していたし、出勤途中で貧血になった人がいれば、遅れて出勤することを許可するのではなく、安全に帰宅するように、上司が諭した。

 それに対し、踊り子は4年近く続けているが、生理なんかで休む人は見たことがないし、いかなる理由でも、遅刻や欠勤をしたら共演の踊り子全員に「落とし前」として商品券などを用意しなければならない。人身事故に巻き込まれても、親が死んでも、落とし前だ。郷に入っては郷に従えというが、こればかりは未だに納得がいかない。踊り子デビューから数年間は、正反対ともいえる世界に、並行して身を置いていたのだ。

本屋の新井さん

 ストリップ劇場は、ステージに女性が立ち、客席に男性が座るものだ。昨今では女性客も増えたが、だからといって、女性顧客を増やすために男性ストリッパーがステージに立つかというと、決してそういうことはない。お客のなかには、女装をした男性や、心が女性の男性もちらほら見かける。現在のストリップ劇場には、単純に性の対象としてだけではない視線が混在しているのだ。

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普段拝むことができない器官を見た時の“ドキドキ”

 とはいえ、大多数は女性を性の対象として見る男性客で、彼らのおかげでストリップ劇場は商売として成り立っている。では、男性の裸体を性的に見たがる女性はいないのだろうか。唯一私の記憶にあるのは、ビジュアル系バンドのLIVEだ。アンコールの声に応えて再登場したメンバーたちが、汗だくのゴテゴテした衣装を脱ぎ棄て、女性ファンがきゃああと絶叫する。濃いメイクを施し、長い髪をカラフルに染めた彼らは、確信犯的に乳首を晒す。思ったより黒い。生白く薄っぺらい胸と生生しい乳首のコントラストが、どこか滑稽でもある。

 見たくなかったような気もするけど、目が離せない。なんだろう、このドキドキは。普段は見せることのないものだからか。そういう関係にならないと、拝むことができない器官だからか。 

 その興奮は、好きな人のカラダ限定なのだ。自分がその男性に愛された上で、自分に対して欲情をする。キスをして、服を脱いで、私に覆いかぶさる―。一瞬でそこまで妄想を膨らませての、きゃああ、なのだ。もし女性向けに、男性ストリッパーが踊る劇場を作るなら、よほど繊細な工夫を凝らさないと、維持するのは難しいだろう。