15年書店員をつとめ、4年前からストリップの踊り子を始めた新井さん。「新井賞」の創設など“本屋の新井さん”として知られた彼女は、自分の体を大切に思えなかったという。新井さんはなぜ、舞台で衣装を脱いだのか。『週刊文春WOMAN2024春号』より一部抜粋の上紹介します。

新井見枝香さん

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書店員とストリッパーの二足の草鞋

 生まれ変わったら男になりたい? それとも、また女がいい?

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 そういう質問を、学校や職場で、何度も振られたことがある。子供を産むなら女の子と男の子どっちがいい? というクソどうでもいい質問同様、空気を読みながら適当に答えてきた。選ばせてもらえるとは思えないし、そもそも私は子供を産むつもりがなく、輪廻転生を信じてもいない。本当のことを言えば、何も産みたくないし、もう一度生まれたくもない。そう思っていた、ストリップに出会うまでは。

 私はストリッパーだ。むずがゆい。言い直す。私は踊り子だ。不思議なもので、踊り子と名乗れば、それは職業ではなく、二つ名みたいに感じられ、すんなり収まる。20代後半から15年以上、本を売る仕事をしてきたが、職業でいうと会社員で、二つ名は書店員ということになるだろうか。その仕事は踊り子デビューから3年後、つまり1年ほど前まで続けていた。

 

育児休暇や生理休暇の概念が全くない職場

 書店員時代、私は5つの店舗と本社の本部で働いたが、異動のお達しがあるまで、最短でも1年間は同じ場所に通い続けた。しかし踊り子の職場はたったの10日間で変わる。ひと月を頭(あたま)・中(なか)・結(けつ)と3つに区切り、全国のストリップ劇場を踊り子たちが10日単位で移動し続けているのだ。旅芸人みたいなものである。10日の間に休日はない。どこにも定住せず、絶え間なく移動し続け、体が動く限り、仕事がもらえる限り、100日でも200日でも無休で働くことが、理論上は可能だ。かつてお金に困ってこの仕事を選ぶ女性が多かったのは、そういうブラックな働き方が可能だからかもしれない。

 風俗業であり、人前で裸を晒す仕事ではあるが、ひもを切ったタンポンを突っ込めば生理中でもステージに立つことはできる。妊娠していても、産後すぐでも、衣装で腹を隠せばなんとかなる。ステージから母乳を飛ばす踊り子もいた。さすがに最近では見ないが、楽屋に乳飲み子を連れてくる踊り子も珍しくはなかったそうだ。育児休暇や生理休暇なんて概念の全くない職場は、ほとんど昭和のまま平成を終え、令和の時代を迎えていた。