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 州知事の立場を追われたスイダニさんは、さまざまな国に身を寄せながら、事実上の亡命生活を送ってきました。今回、ソロモン諸島の実情を日本の人々に知ってほしいという思いから来日されました。

(略)

 2023年2月に知事を失職することになった当時、一体何があったのか、その状況について、スイダニさんご本人に語ってもらいます〉

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中華系企業に森林資源を破壊された

〈スイダニ 私は任期中に3回、不信任決議案を出されていますが、いずれもマライタ州の人々が声を挙げたのではなく、背後に中国の影響があることは明らかでした。とくに2023年2月に3回目の不信任決議案が提出されたときには、民衆がデモを起こそうとすると、政府が監視艇や警察を派遣し、道路を遮断することで妨害してしまった。マライタ州議会の問題に中央政府がここまで介入して来るのは、まさに異常事態でした。

 中国の関与をなぜ疑うかと言えば、私が中華系企業によるソロモン諸島の開発に強く反対してきたからです。ソロモン諸島は木材輸出のために過去40年にわたり森林伐採や開発を続けてきた歴史がありますが、2019年にソガバレ政権が中国に外交転換した途端に、続々と中華系マレーシアの企業が進出してきました。今までも、無計画な伐採を進めた結果、ソロモン諸島の森林資源は徹底的に破壊されてしまいました。しかも、中国企業が潤うだけで、ソロモン諸島には利益が入ってこない仕組みになっていた。こうした中国企業の進出のあり方に私たちは反対してきたのです。

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 中国の支配力が強まるなかで、言論統制が進み、人々は自由に発言することに恐怖を感じています。現在のソロモン諸島の国民の90%が、台湾から中国への外交転換に反対していますし、中国寄りのソガバレ政権のもとでの生活に不満を持っています。

 現在、私は「エグザイル」(亡命中)であると言われることもありますが、諸外国を巡っているのは、将来のソロモン諸島に資するさまざまな情報を得ることが目的です。ニューヨークにある国連の会議に参加して、ソロモン諸島の窮状を訴えたり、民主主義国家であるアメリカやカナダなどの状況を視察したりしています。

 もちろん普通の生活は送れていません。とくに私の子どもたちは、ソロモン諸島で非常に危険な状態にあって、安心して学校に行くことすらできません〉

「チャイナマネー」を受け取る政治家たち

 2021年にソロモン諸島の首都ホニアラでは、反政府を掲げた大規模な「暴動」が起きている。チャイニーズタウンが焼き打ちされ、3人の死者が出る事態になった。国民の間では「中国人に搾取されている」ことへの不満が蓄積しているが、中国企業からの賄賂「チャイナマネー」を受け取る政治家たちは何ら対策を講じていない現状があるという。

2021年の反政府デモ ©時事通信社

〈スイダニ (2022年4月に)中国とソロモン諸島の政府が結んだ「安全保障協定」は、国民にとってはまったく秘密のベールに包まれています。協定の内容をソロモン諸島の人々は何も知らされていません。政府の役割は本来、平和をもたらす活動を行うことで、人々の不安を掻き立てることではないはずです。「安全保障協定」の中身も、隠すのではなく、しっかり説明すべきです。

 2019年に台湾から中国に外交転換して以降、ソロモン諸島の人々は、自分の国に何が起きているのか、政府からまったく知らされなくなりました。

 国民はリーダーであるソガバレ氏に、中国との関係性について何度も説明を求めてきたのに、彼はそれをずっと避けてきて、それに対するフラストレーションが溜まり、ホニアラでのような暴動に繋がったのです。権力を持つリーダーが十分な説明をしないことに人々は怒っています。ソロモン諸島は、とくに他国からの脅威に晒されている状況ではありません。なのに、なぜこの時期に中国と安全保障協定を結ばなければならないのか。

南太平洋における「中国と国交がある国」と「台湾を承認している国」の分布図 ©文藝春秋

 2023年7月に結ばれた警察協力協定にもとづき、中国の警察官がソロモン諸島に続々と入ってきて、首都のホニアラで訓練を行ったり、大砲を島に持ち込んだりしています。そうした光景に人々は疑問を抱いているのです〉

麻薬、人身売買、違法移民が蔓延る

 近年、太平洋島嶼国では、麻薬、人身売買、違法移民などの犯罪が蔓延っており、中国支配の影響で、さらに治安が悪化していると言われている。スイダニ氏によればソロモン諸島も全く同じ状況だという。

〈スイダニ 外交転換を機に、中華系マレーシアの伐採会社が、続々と進出してきました。社員は妻や子供を伴わずに単身で来て、ソロモン諸島の若い女性を買う。貧しい家庭も多く、自分の娘を売りに出す家もある。本来は敬虔なキリスト教の国ですから、そんな荒んだ状況はとても受け入れられないはずなのに〉

 3月19日に「文藝春秋 電子版」に掲載される「日米激戦地 ガダルカナルで進む『中国支配』」では、ソロモン諸島で進む露骨な中国進出の生々しい実態、ソロモン諸島住民の日本への期待などについて、スイダニ氏が存分に語っている。