《だけど私ったら、これまで嫌な風に吹かれたことがないんですよ。楽しい人生を送っている(笑い)。もしかすると、風が強くなるのは、これからかもねェ。息子に嫁がきて、嫁姑問題がこじれにこじれて、爆弾低気圧のようなとてつもない風が吹き荒れたりするかもしれないじゃない?(笑い)》(『週刊ポスト』前掲号)
華麗なる芸能一家
平野がそう語ったあと、二人の息子のうちまず次男の和田率(クリエイティブディレクター)が学生だった明日香と2010年に、続けて長男の和田唱(ロックバンド「TRICERATOPS」のギター・ボーカル)が俳優の上野樹里と2016年に結婚した。妻たちは姑の平野と関係がこじれるどころか仲よくやっている。和田明日香は結婚当初、まったく料理について知らなかったが、平野に触発されて勉強を重ね、食育インストラクターとなった。
夫の和田誠とは2019年10月に死別。仲がよかった夫婦だけに、エッセイストの阿川佐和子やタレントの清水ミチコら友人は平野のことを心配した。数ヵ月後、雑誌の鼎談で彼女たちと一緒になった平野は、二人に感謝するとともに《和田さんが亡くなってわかったのは、あんまり完璧な夫と結婚しないほうがいいってことかな。だってさ、イヤなところないと諦められないもん》と語り、明るく振る舞いながらもさすがに喪失感をうかがわせた(『婦人公論』2020年1月28日号)。
昨年、再び同じメンバーで鼎談を行った際には、平野は《最近、次男が「未亡人のレシピ本を書け」って言うの。未亡人が作る、“味望人(みぼうじん)レシピ”だって》と明かした(『婦人公論』2023年2月号)。愛する夫が亡くなってからも、彼女があいかわらず元気に活躍を続けているのは、いつも家族や友人に囲まれているからでもあるのだろう。
「私だけ生きてたって淋しいよねえ」
平野はいまから20年ほど前の阿川佐和子との対談で、歯医者に「このまま、時々、歯茎の掃除してれば百歳まで元気ですよ」と太鼓判を押されたという話から、阿川に《百歳まで生きますか》と訊かれ、《どうする? みんな死んじゃって、私だけ生きてたって淋しいよねえ》と返すも、《大丈夫。新しいお友達ができるから、マシューみたいな》と言われていた(『週刊文春』2003年8月7日号)。マシューとは当時、バラエティ番組『マシューズ ベストヒットTV』で共演していた藤井隆演じるキャラクターの名前である。当時、この番組をきっかけに若いファンが急増していた。
家族は夫の生前と変わらず、ことあるごとに平野の家に集まっては一緒に料理をつくって会食している。毎年平野の誕生日には3人の孫が手づくりの本をプレゼントしてくれるという。和田明日香とは近年、一緒にテレビに出演したりレシピ本を出したりして、新しいファンはさらに増えているはずだ。テレビではたとえ生放送中にブロッコリーが倒れてネットが騒ごうとも気にしない。平野を慕う人がいまなお絶えないのも、そんな自由な生き方にみんな憧れるからだろう。