角界には“荒れる春場所”という言葉があるが、今年の春場所はレベルがすごすぎた。その主役が、大銀杏も結えないちょん髷の新入幕、尊富士(24)だ。
初土俵から所要9場所の史上最速タイ(幕下付け出しを除く)で新入幕を果たすと、昭和35年初場所の大鵬と並ぶ、史上1位タイの初日から11連勝。翌12日目は土がつき“大鵬超え”はならなかったが、その後も優勝戦線のトップを走り続け、最後は右足首のケガで休場危機に陥るも千秋楽は強行出場して勝利。110年ぶり2人目の新入幕優勝という歴史的快挙を成し遂げた。
「地元でやりたかったけど部員が集まらなかった」
出身は昔から相撲が盛んな青森県五所川原市。物心ついたときから相撲を始め、小中学校時代は全国トップレベルの実績を残したが、かつての相撲どころも廻しを締める子供が激減。「地元でやりたかったけど部員が集まらなかった」と強い稽古相手を求め、高校は強豪の鳥取城北高へ。
「青森でやらない分、日本で一番厳しいところでやれば、文句は出ないだろうと(笑)」と、郷土愛の強い男の苦渋の選択だった。
高1からレギュラーに名を連ねたが、高2で左膝前十字靱帯を断裂する重傷を負い、1年以上を棒に振った。高3で戦列復帰するも直後に再び同箇所を負傷。日大進学後もケガに苦しみ、実力がありながらタイトルには恵まれず、悔しい思いを募らせた。