サッカー日本代表、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督がロシアワールドカップを2カ月後に控えた段階で、契約を解除された。この事態を受けて日本サッカー協会の技術委員長を務める西野朗氏が代表監督に就任した。

 この緊急人事における一番の違和感は、技術委員長の監督就任である。この一点において論じたい。

なぜ技術委員長の監督就任が「あり得ない」のか

 同協会の田嶋幸三会長は解任の理由として、結果も内容も低調に終わった3月のマリ戦、ウクライナ戦を受け「選手とのコミュニケーションや信頼関係が多少薄れてきて、今までのことを総合的に評価してこの結論に至った」と説明した。解任やむなしの理由がたとえあったにせよ、後任に技術委員長を据えることはあり得ないと感じている。

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2015年に日本代表監督に就任したハリルホジッチ ©文藝春秋/杉山拓也

 西野氏の経歴は、申し分ない。1996年アトランタ五輪でブラジル代表を破った“マイアミの奇跡”から始まり、ガンバ大阪の黄金期も築いた。西野氏が「あり得ない」のではなく、その立場ゆえに「あり得ない」のだ。

 技術委員長は、監督の仕事を評価する技術委員会の長という立場である。「(西野氏は)ハリルホジッチ監督を最後までサポートしてきた」と田嶋会長は強調するが、ハリルホジッチ監督を客観的に評価しつつ代表チームをうまく進めるために差配していくことが技術委員長には求められている。

「監督と選手の信頼が薄まっている」のだとしたら、技術委員長としてやるべきことはもっとあったのではないか。無論、この素朴な疑問に対して田嶋会長は、技術委員長、監督、チームを含めて密にコミュニケーションを取ってきたと主張する。そのうえでの苦渋の決断だったのだ、と。

良いのか悪いのか、評価が見えないという問題点

 ならば一体、技術委員会はハリルホジッチ監督をどのように評価していたのか。

 田嶋会長の話をそのまま飲みこめば、技術委員会はハリルホジッチ監督を積極的ではないとしても、評価していたことになる。もし評価していなかったとしたら、もっと早いタイミングで解任に動いてもおかしくない。

前回のW杯ではアルジェリア代表を史上初のベスト16に導いた ©文藝春秋/杉山拓也

 ノルマを設定することもなかった。たとえば昨年12月の東アジアE-1選手権、たとえば今回の欧州遠征。ハリルホジッチ監督に「あなたのサッカーではワールドカップで勝てない。次の試合で査定させていただく」と伝えておけば、指揮官は必死になって勝ちにいったはずである。ハリルホジッチ監督で本番を戦えるかどうか見極めることができたと思うのだ。

 しかし指揮官は欧州遠征で人選を含めてテストを続け、6月の本大会を見据えて自分のプランニングに徹していた。コミュニケーションを密に取っているならば、技術委員会も積極的ではないとしてもその方針を承諾していたことになる。

 日本代表はロシアW杯出場を決めて以降、低調な試合が続いている。それでも本番への期待値をこめて評価してきたということなのか。良いのか悪いのか、その評価が見えなかった。解任を伝えられたハリルホジッチ監督が驚くのも無理はない。評価されていないなどとは思っていないのだから。