ハリルホジッチは、主(あるじ)なきチームを救うメシア(救世主)として現れた。熱狂は束の間、時間が経つにつれ、現場から不満の声がメディアに漏れ、「試合が面白くないから観客が来ない」「あんな高額年俸を払っていても守備的サッカーしかできない」「スコアは1―0ばっかり」とネガティブキャンペーンが張られていく。そして、会長の手による電撃的な解任、それに続く混乱……。

 これは日本代表の話ではない。7年前のクロアチアでの話だ。当時、ディナモ・ザグレブの監督を解任されたハリルホジッチに、極東の地で再び繰り返された解任劇。そこで彼と親交が深く、日本代表監督解任直後に独占インタビュー(http://bunshun.jp/articles/-/7052)もしたクロアチアのスポーツ紙『Sportske Novosti』(スポルツケ・ノヴォスティ)のトモ・ニチョタ記者に、話を聞いた。日本人が知らない本当のハリルホジッチとは――。

ディナモ・ザグレブ監督時代のハリルホジッチ ©長束恭行

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ハリルは「フェア」だが「誰にも譲らない」人間だ

――今回のハリルホジッチとのインタビューに至った経緯は?

「ヴァハ(ハリルホジッチの愛称)とは多岐に渡るテーマについて頻繁に話している。なぜなら、彼は尊敬すべき話し相手だし、いつも応対してくれるからさ。彼が日本で解任されたと聞き(解任発表は日本時間4月9日)、直ぐに電話を入れたけど、数日間は出てくれなかった。解任が彼に衝撃を与えたのは明らかで、金曜日(13日)になってようやく電話に出てくれた」

――君はハリルホジッチを監督として、そして人間としてどう見ている?

「ヴァハのことは高く評価しているよ。何をやるべきか、それを実現するためにどうすべきかを知っている素晴らしい監督だ。フェアな人物でもある。しかし、すべてを彼が欲するがままにさせて欲しいタイプで、誰にも譲ろうとはしないんだ。そのことが頻繁に問題となり得るし、実際に問題になってきた」

ディナモ・ザグレブ監督就任最初の練習では、日本代表と同じく選手達と一緒にランニングを行った ©長束恭行

――日本サッカー協会は解任理由に「選手とのコミュニケーションや信頼関係の障害」を挙げたが、ディナモ・ザグレブの監督だった時も同じ問題はあったのか?(注・2010年夏に監督就任し、2011年5月に解任)

「ディナモではコミュニケーションの問題はなかった。言葉の壁そのものがなかったからね。ただ、厳しいルールを好ましく思わない選手はいた。彼は選手に多くのことを要求する。ピッチ上だけでなく、ピッチ外のこともだ。時間が経つとそれが重荷となり、問題になり得るのさ」

――ハリルホジッチ率いるディナモの試合内容が芳しくない時、メディアは酷いキャンペーンを張っていたのを覚えている。日本でも同じ状況になったわけだけど、彼は時間が経つにつれ、世論にネガティブな空気ができるタイプなのだろうか?

「結果的にはそういうことになるだろうね。彼のキャリアを振り返ってくれ。4年間率いたリール(フランス)に次いで、彼が最も長く率いたチームが『日本代表』なんだから。ただ、どこでも何かしらの結果は残す、あるいはプレー内容に何かしらの進歩を見せることは、監督としての彼のクオリティの高さを語るものだ」

――なるほど。

「ところが、直ぐに周囲を疲れさせてしまう、あるいは彼が疲れてしまうのは目に見えている。ディナモでの最初の数カ月間は素晴らしく、危機ともいうべきシーズンを救った。プレー内容は良かったし、欧州での戦いでも健闘したんだ。しかし、ヨーロッパ・リーグの最終節に敗れ、グループステージ敗退が決まるや否や、もう長くは続かないことははっきりしていた。いつも契約延長に関する質問になると『サッカー界では何が起こるかまったく分からない』『他にオファーがある』『どうなるだろうね』などとはぐらかした。そういう状況が何カ月も続き、緊張感や対立、批判が高まったことで彼が去ることになったのさ」