忙しくても1分で名著に出会える『1分書評』をお届けします。
今日は俵万智さん。

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倉本美津留の超国語辞典

倉本 美津留(著)

朝日出版社
2015年12月12日 発売

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 言葉で、こんなに遊べるのか! と驚かされる。たとえば「大げさ表現語」。日本語の慣用句に対して、大げさすぎるんじゃね? とツッコミを入れるという遊びだ。

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「必死」←ほとんどの場合、死なない。「顔に泥を塗る」←秘境の部族でもあるまいに。「毒舌」←まず自分が死ぬ。などなど。

「お言葉・御の字」では、「御」をつけることで、言葉がさまざまに変化する様子を楽しむ。「ネガティブになる」コーナーを見てみると「上手に御をつけたらイヤミになる(お上手)」「荷物に御をつけたら厄介者になる(お荷物)」「めでたいに御をつけたらバカになる(おめでたい)」といった具合。

 他にも「おかしな名前つけられて(安全ピンは安全じゃない、膝枕はモモ枕など)」「比喩表現の夕べ(飯に種はあるか、豆腐の角に頭をぶつけると死ぬか、などを検証)」「そんなたとえやめてくれ(馬の骨や野次馬への馬からの反論、犬死や負け犬への犬からの反論)」などなど、これでもほんの一部にすぎないほど、とにかく日本語で遊びたおしている一冊だ。

 遊びの内容の充実度もすごいが、そもそもこんな遊びを思いつけるというところがすごい。私たちが普段、何の疑問も抱かずに、あたりまえに使ってしまっている日本語に、著者はいちいち「なんで? なんで?」とからんでいる。まるで小学生男子が、大好きな女の子にちょっかいを出すかのように。つまり、これは言葉に対して、子どものように真っ直ぐでなければ思いつけない遊びの数々だ。

 ちなみに、我が家には本物の小学生男子がいる。先ほどの「顔に泥を塗る」に対して、彼は「びよう」と答えていた。「膝枕」という語を知ったときには、私の膝に頭を載せてみないと気がすまなかった(もちろん痛くて、すぐにやめた)。

 そんな子ども同様の純粋さに加えて、著者には大人としての半端じゃない言葉への見識がある。

 私は、画家の有元利夫の言葉を思い出した。「……使い古された言い方は、『手垢にまみれた』とかなんとか因縁をつけられて、だんだん敬遠されてしまう。考えてみれば、通俗な表現というのは、人間のどこかにそれだけ深く根差しているものだからこそ、広く行きわたって『通俗』になったと思うのです。」(『有元利夫 女神たち』)

 この「手垢」の成分を徹底分析したのが本書なのだ、とも言えるだろう。

俵 万智(たわら・まち)

俵 万智

1962年、大阪府門真市生まれ。早稲田大学文学部卒。1986年、『八月の朝』で角川短歌賞受賞。1988年、『サラダ記念日』で現代歌人協会賞受賞。2004年、評論『愛する源氏物語』で紫式部文学賞を受賞。2006年、『プーさんの鼻』で若山牧水賞受賞。その他の歌集に『オレがマリオ』、エッセイ集に『旅の人、島の人』など。石垣島在住。