14億人の人口を有し、土地資源が極端に不足している中国では「不動産神話が崩れることは絶対にない」と信じられてきた。ところがいま、不動産バブルが崩壊しつつあるという。
ここでは、中国経済の専門家・柯隆(かりゅう)氏による新刊『中国不動産バブル』(文春新書)を一部抜粋して紹介する。不動産開発をめぐる「マネーゲーム」と「腐敗」の実態とは――。(全2回の2回目/前編を読む)
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中国政府も不動産開発を熱心に促進してきた。その理由を知るために、まずは中国の経済発展モデルと政府の経済政策を概観しておく必要がある。そもそもの始まりは、1978年に始動した改革・開放政策だ。
それ以前の中国経済は毛沢東時代の計画経済の失敗により破綻状態にまで陥っていたが、最高実力者となった鄧小平は大きく方針転換。段階的に経済の自由化を進め、外国企業の対中直接投資を誘致した。この政策の真髄は、中国国内にある大量の廉価な労働力を外国資本と組み合わせ、廉価な商品を大量に生産・輸出して外貨を獲得することだった。
この輸出依存のモデルは比較優位戦略と呼ばれる政策だが、輸出製造業の伸長は間違いなく中国経済の飛躍に大きく貢献した。一方、輸出促進を偏重する政策をとったことで国内市場の発展は遅れ、とりわけ都市インフラ整備は諸外国に著しく後れを取っていた。いかにして都市再開発を進めるかは中国政府の長年の悩みだった。しかも、輸出製造業に依存する経済成長は輸出先市場の景気循環に大きく左右される弊害がある。
日本から学んだ「重要な制度」
1990年代に入り、朱鎔基首相(当時)は内需に依存する経済成長を強化しようと呼び掛けた。内需のなかでもっとも可能性を秘めているのは不動産に対する需要だった。不動産開発は人々の住環境を改善するだけでなく、経済成長を押し上げる効果が期待され、いわば一石二鳥の戦略であったのだ。
しかし、不動産開発を進めるには、高い壁が立ちはだかっていた。それが土地の公有制である。国が所有する土地は自由に売買できないのが不動産開発にとっての弊害だった。その弊害を取り除くため、中国政府は日本からある重要な制度を学んだ。定期借地権という概念である。