中国が総合的な国力で米国をしのぐ日は来るのか。これは21世紀の国際秩序を考えるうえで最も重要な問いだろう。中国では「米国は自分たちのGDPの6割を超えて成長する国を全力で潰しにかかる」という説が米中対立の原点として広く信じられている。その先例が旧ソ連と日本だ。2022年の中国のGDPは18・1兆ドルで、米国の7割を超えた。

「勝負をかけるなら今のうちだ」中国政府が台湾武力統一に駆られる衝動

 一方で、2023年になって米英のメディアでさまざまな識者が「ピークチャイナ」という言葉を使うようになった。1978年に鄧小平による改革開放政策が始まって以来の40年間、中国は平均9・5%という高成長を続けてきた。しかし、いまやそうした時代が終わったのは明らかだ。

 習近平政権のゼロコロナ政策のもと上海がロックダウンされた22年の成長率は3・0%にとどまった。IMF(国際通貨基金)は23年の成長率を5・0%、24年は4・2%と予想している。急激な成長の鈍化を受けて、近々に中国はその国力のピークを迎えて衰退に転じるという見方が浮上している。これまで確実視されてきたGDPでの米中逆転についても否定的な議論が増えてきた。

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リスクが高いのは2020年代

 巨大な消費市場である中国の経済が停滞することのインパクトは大きい。IMFによれば、中国の成長率が1%下がれば、世界経済の成長率は0・3%低下する。加えて「ピークチャイナ」論が注目されているのは、その影響が経済分野にとどまらず安全保障にまで及ぶ可能性があるとされるからだ。

 米ジョンズ・ホプキンス大学のハル・ブランズ特別教授は共著『デンジャー・ゾーン』(邦訳は飛鳥新社)で「中国は国力がピークにあるうちに台湾の武力統一を図る可能性があり、そのリスクが高いのは2020年代だ」と論じた。経済の停滞と戦略的包囲網に直面した中国が「勝負をかけるなら今のうちだ」という衝動に駆られるとみているわけだ。「ピークチャイナ→台湾有事」論を唱える人には、米国の安全保障関係者が多い。台湾有事を名目に、米軍の装備更新を加速させたいという発想があるとみられる。