実際、中国の地方政府が借金まみれなのに比べて中央財政には相対的に余裕がある。それでも、かねて債務リスクを「灰色のサイ」と呼んで警戒してきた習近平国家主席は、景気対策のための財政出動には慎重な姿勢を崩さない。
中国経済の下振れは日本経済を直撃する
人口動態をめぐる悲観論に中国政府は「人口の質」向上で対抗する構えだ。教育・訓練による人材の高度化で生産性を上げるという発想である。男性は60歳、女性は55歳か50歳の定年を延長して労働力不足を補うための地ならしも進む。そのうえで農村部から都市部への人口移転を一層進め、現在65%の都市化率を90%超の水準まで引き上げることなどが議論されている。
生産性改善の切り札はイノベーションだが、米中対立が激化するなかで海外からの資本や技術の導入は難しくなっている。民間企業より国有企業を優先する傾向が強い習近平体制のもと、技術革新が本当に進むのかは大きな課題だ。
ピークチャイナは決して対岸の火事ではない
日本の場合は90年代初頭にバブルが崩壊してから、09年に人口が純減に転じるまでに20年近いタイムラグがあった。中国ではそれが同時に生じているだけに対応は簡単ではない。
最大の輸出先である中国の経済下振れは日本経済を直撃する。しかも中国企業は国内市場が低迷すれば海外に活路を求め、日系企業はグローバル市場で激しい争奪戦に巻き込まれるだろう。日本にとってピークチャイナは決して対岸の火事ではなく、巨大な構造転換がもたらす衝撃に備える必要がある。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2024年の論点100』に掲載されています。