自主性があってこそ急成長できる
日本海側といえども6月はすでに暑かった。武道場にはタンクトップにショートパンツ姿の女子高校生たちがひしめいており、その空間に立ち入るのは一瞬ためらわれた。映画公開の影響もあってか、この年は30名以上もの1年生が入ってきたという話だった。
勇気を出して一歩を踏み出し、端のほうに立って練習を見ていると、興味深い光景に出くわす。
2、3年生は2人1組になって踊りの動きを繰り返し、お互いに気づいた点を常に指摘し合っている。一方、体育服姿の新入生は壁の一面に張られた鏡の前に正座で並んだ。そして始まったのが笑顔の練習。めいめいが歯を見せてニコッとした表情をつくり、指で口角を持ち上げてまで最高の笑顔を鏡に映しだそうと努力していた。応援、すなわち他人を元気にすることがチアダンスの原点だから、こうした笑顔づくりも競技の重要な要素なのだ。
「私、自分でチアダンスを指導するつもりがないんですよ」
途中、五十嵐が全員を呼び集めて話をする場面はあったが、ダンスに関して細々と技術指導をする様子はない。五十嵐はこう言っていた。
「私、自分でチアダンスを指導するつもりがないんですよ。どちらかというと、プロデューサー目線なんですね。組織論や経営学的なものは一生懸命勉強しますけど、餅は餅屋。トレーニングや踊りに関しては、専門的な方に来てもらったほうが早いですから」
ダンスについては、全米初制覇メンバーのOGが外部コーチとして月に一度、指導しにやって来る。さらに普段の練習は、五十嵐の指示によって動くのではなく、生徒自身が切り盛りするシステムが確立されている。日ごとに練習リーダー(略して「練リ」)が割り当てられ、部員たちに指示を飛ばすのだ。
ダンス未経験者だというある1年生(当時)はこう話す。
「最初はダンス経験のある1年生が練習を仕切っていたんですけど、経験者に頼り過ぎてるんじゃないかという話になって、私たちも1年生を仕切る練リを順番に担当するようにしました。先輩から指示をもらうこともありますし、苦手だと感じているところがあれば、そこを練習しようと自分から言ったり……」
未経験であろうとも、入部してすぐに練習を任される。そうして育まれる自主性があってこそ、短い期間でも急成長できるというわけだ。